シュテファン・ツヴァイク『スタンダール』(全集第7巻、新潮文庫)自己の悩みを強みに転化する内面的生活

ユダヤ系作家、シュテファン・ツヴァイクだが実の多くの伝
記、評伝を書いている。国内ではツヴァイク全集、全17巻で
「みす書房」から刊行されているし、それ以前から新潮文庫
としてその作品は出版されていた。ツヴァイク全集では第7
巻になる。ツヴァイクは第一次大戦後、ロマン・ローランと
ともに人道主義、反戦論を訴えた。大戦後は旺盛な執筆活動
を続けたがナチスの憎悪を浴び、第二次大戦勃発でアメリカ
に移り、1942年、ブラジルで自ら命を絶った。1881~1942
その大戦後の作品の一つ、『スタンダール』である、
スタンダールといえば『赤と黒』、『パルムの僧院』ともに
映画化されている。日本人なら、まずはそれと『愛について』
くらいだろう。我々、いっぱん市井の民は文学者でもなく、
フランス文学専門家でもない、フランス語で読み解くはまず
無理だろう。遅々としてなら可能であるが。でも長い作品とな
ると至難だ。ただただ一度限りの人生を、不条理な災難、不幸
に見舞われながらできるだけ幸福に生きようとするのみである。
だが無名の市井の民でも文学作品は実用書、哲学書、宗教書
より実は遥かに多くの生きる上での示唆と力を与えてくれるも
のである。それは別段、気取ることもなく、偽ることもなく、
人間の生き様、死に様、人間性の真実と現実をありのままに伝
えてくれるからである。スタンダールの日記、随筆などは実は
この点で文学の原点を知らしめてくれると思う。スタンダール
全集、人文書院があるが収録は不完全である。だがこれらを読
みこなすのも容易なことではない。
で、スタンダール全体を読むなどできない一般市井の民が、
その本質を掴みたい、と思うとき、ツヴァイクの『スタンダー
ル』は最適というべきか、書き方はすべての生活者にとって
参考となり得ると思う。スタンダールが多くの困難、また内在
する劣等感と格闘し、これを自己の強みに転化したというその
過程が興味深いし、意義を感じる。
青年時代、自分自身がデリケート過ぎること、無口で付き合い
が苦手、疎外されやすい、憐れむべき多くの弱点がスタンダール
がその中に身を潜めることで、憂鬱の魅力を見出すようになり、
さらに進んで自分が出来損ないの人間ではないと確信し、、この
内面性無くしてはなし得ない生活と仕事を発見するに至る、つい
にはあらゆる屈辱も官界での不遇も女性に好かれないこと、文学
の不成功もこれを誇りとさえし始めることができた!
真剣に生きようとするものは、対決を怖れてはならないという
ことを学ぶはずだ。すべての人に共通の苦しみを自己の問題とし
て悩むことも意義がある。万人に対抗しても自己の主張はまた必
要である。スタンダールは弱点、苦しみを逆に自己の強みとした
ことにその大きな特質を持つ人物だった、と教えてくれる。
ツヴァイクはこういう
「スタンダールの作品が年を取らないのは、彼が時代から離れ、
超越していたからだ。彼がかくも生き生きと見えるのは、彼が本
質的に内面に生きた人間であったからだ」

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