深沢七郎『甲州子守唄』1964,「笛吹川」の続編的作品、変態的な悲しさが漂う

並べると何かと思うだろうが作家の深沢七郎、旺文社創業
者の赤尾好夫、プロレス王者のジャンボ鶴田こと鶴田友美
、あ、だったら藤原優もいれないと、ラグビーで全日本の
ウィングの藤原優、とNo.8の山下治、・・・・・これらは
旧制の日川中学から戦後の日川高校の卒業生である。さら
に藤原優と日川高校で林真理子は同級生、となかなか錚々
たる卒業生を擁する学校ではある。一筋縄ではいかない実
力と「クセ」を持つ。・・・・・まあ、それはともかく、
ひとクセあるといえば深沢七郎が筆頭かもしれない。
で、今回は「甲州子守唄」1964,講談社、現在も講談社
文庫、中央公論社社長夫人の刺殺事件を結果的に招いた
深沢七郎作「風流夢譚」のいわば筆禍から三年ほど全国を
放浪、その後に書いた「甲州子守唄」、全作?の「笛吹川」
は1958年に発表であった。続編と言ってさて、・・・・。
舞台はやはり作者の故郷の甲州で、「笛吹川」の橋の袂
の貧しい一家の物語である。オカアに、息子の徳次郎と妹
のオギンという家族だ。養蚕もやる資金もなく、オカアの
望みは唯一つ、息子のアメリカ行きであった。
時代は多分、大正半ば頃だったろう、あの当時はアメリカ
極端な排日移民法など日本人移民排斥が絶頂の時代だ。つに
日本人は完全にシャットアウトされてしまうが、そのことへ
の記述は見られない。
村には金をためて帰った「アメリカさん」と呼ばれる連中
がいるが、アメリカでどんな仕事をするズラ?」と聞いても
教えてくれない。叔母もやってきて、20年間アメリカで働け
ば、いくら貯まるのか、という話になったとき、オカアは夜
中、徳次郎の枕元に来て「いいか、五千縁稼いで帰っても三
千円と言わなきゃダメだぞ」と喚く、なんとも、物悲しくも
あり、『楢山節考』の世界に通じる。
かくして徳次郎は念願かなってアメリカに出かけるが、十
年後に嫁をもらいに帰ってくる。その際の珍奇なお見合い、
ひどい守銭奴の家に嫁いだオギンの離婚話とか、どれも滑稽で
悲しい。オカアは小さな雑貨店を営んで息子の帰りを待つ。だ
が二十年後、帰ってきた徳次郎は人が変わったような薄情者に
成り果てていた。話は淡々と進み、敗戦から混乱へと進むので
あるが、『楢山節考』の母親を山中に捨てる、のコンセプトが
なお生きていると感じる。作品自体の知名度は低いが、やはり
一癖も二癖もある作者の妖気じみた匂いが漂っている。
この記事へのコメント