須知徳平『春来る鬼』1963,すさまじい怪異譚、第一回毎日新聞吉川英治賞だが


 3c4e8_0003654722_3.jpg現在の吉川英治賞とは異なる毎日新聞の吉川英治賞の第一
回受賞作だという。無料Kindleで読める。以前は講談社文庫
でもあったはずだ、本自体はこのタイトルの作品を含む短編
集である。すべて日本の古色蒼然たる風俗、慣習を残すとい
う三陸海岸が舞台である。その舞台の上の怪異譚である。
「春来る鬼」は「駆け落ちして三陸海岸に流れ着いた男女が
とある部落においてそのテストをクリアーし、その構成員と
認められただその部落に悪疫が流行し始める、それは南の海
を渡ってくる鬼の祟だという、・・・・・伝説に基づく、奇
怪な話である。

遠い昔と云うが、時代は定かではない。

 「潮も風も雲も、未だに神の属性を失わず、その人格性を
奪われることもなく、人々の極めて身近な存在として生きて
いた頃のことである」と作者はまず述べている。口碑伝説の
一種なのだろうか。

 婚礼の夜、さっぱ船に乗って北の浜を逃げ出した「さぶろう
し」と呼ばれる男と「ゆの」と呼ばれる女はシケにあって、人
が怖れる鬼の岬に流れ着いた。よそ者は入れない部落だったが、
二人は運良く、殺されずに済んで、「くっくねの爺」の手当を
受けたが、「さぶろうし」は白髪の「ばんば」と名代衆を従え
た頭屋の裁きを受け、「ためし入り」の身となった。「さぶろ
うし」が与えられた第一のテストは逆流する底波をきって潜り
に耐えて、海底から石を取ってくるという「ゲダのお石取り」
である。さぶろうしは、それに耐えて部落のものから褒め言葉
を受け、医師を二体のアンバサマに捧げた。

 第二の課題は、後ろ手に縛られて褌一枚で閉じ込められると
いう「喪屋入り」で地獄の苦しみに耐え、三郎市は次の満月の
夜、のッペに担がれて小屋に帰った。ゆのは屋敷のかしき女と
して、白髪のばんばに酷使される身となっている。二人が一緒
になれるのは辛苦の仕事の「ためし」を終えてからである。

 そうしたら部落に悪疫が蔓延し始め、・・・・と奇怪な話、
怪異譚が次々と羅列されていく。

 読んで気持ちの悪くなる物語であり、伝承の世界とは思うが、
二度は読みたくない作品ではある。でも病みつきということも
あるから、人それぞれだろうが。

 こういう古俗、伝承、方言を駆使した怪異譚の近代の作品は
珍しいだろう、毎日新聞の吉川英治賞第一回受賞作というのも
、まあ、うなずける部分はある。

 作者の経歴、年譜が最後に付されている。自筆年譜である。

 昭和17年 、1942年 4月、國學院大學専門部入学、古代文学
に熱中し、折口信夫先生の民俗学講義に惹かれ、、教室を追いか
けるように聴講する(父親が考古学や民俗学が好きで、石器、土
器あるいは昔話を数多く採集していた)

 ここらに秘密がありそうだ。ユニークであることは間違いない。


 須知徳平

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