須田作次『草の情』1963(河出書房新社)類を見ない民話的で素朴なエロティシズム


 1962年だろうか『烏のしらが』で芥川賞候補となった、
須田作次(1925~2006)の長編描き下ろしで1963年初頭に、
河出書房新社から出た、・・・・・もう忘れられた作家だ
ろう、この『草の情』は古書で容易に購入可能である。

 『烏(からす)のしらが」で芥川賞候補、民話の世界を描い
たやや特異な個性的な作風だったが、その翌年に描き下ろし
長編で河出書房新社から刊行された『草の情』、やはり特異
な雰囲気である。

 「あとがき」で作者の須田は「ぼくの小説は、あなたの理
知の目で読まれると、なんだか、冷たくつっぱねられそうな
気がして弱いのだ。あなたのなかの原生的な、埴輪のような
素朴な心で読んでいただきたい」

 この作品はまた民話的な内容で、またメルヒエン調である。
もう作者の言うに従って、理知の眼を捨てて、美しい渓流の
流れに身を任させる、効用の山奥に分け入って彷徨うような
気持ちが必要となる。

 主人公が母親の遺骨を埋めに故郷の村に戻ってきた。もう
長い長い期間、近親婚を繰り返してきた落人集落だった。だが
現在はスキー場会社に買収され、、無人の里となっている、が
意外にもその故郷の廃屋に入ったら「お出でなさいまし」と両
手をついて迎えてくれた化生(けしょう)のような女がいたので
ある。それは戦死した兄の妻のキクノであった。別段、その
廃家に住んでいるのではなく、主人公の帰郷を知って先回りし
て戻っていただけなのだ。

 二人は幼なじみでもあり、幼い頃は蔵の中で相応の秘事を
やった間柄でも有る。彼女が用意してくれていた風呂に入り、
酒を飲むうちに遠い思い出が頭をよぎった。兄嫁と云えば、
亡夫の記憶が彼にダブって、二人はいつしか結ばれる。翌朝、
二人はお盆の墓参りを約束して分かれる。

 翌年のお盆にはその村に二人の女が住み着いていた。故郷
で死にたいと養老院を出た老婆と、その孫のマイコである。
彼を迎えた兄嫁は、急に今夜はマイコの家に泊まってくれ、と
いう。マイコの悲しい身の上を語る。マイコは一度は主人公
と結婚話があった、それを忘れず今なお処女で彼を待っている
というのだ。マイコに江は代々、客をとまらせて、夜伽の娘を
侍らせていた家であった。そこでマイコを哀れんでの兄嫁の配
慮だった。

 まことに、これは土俗的なエロティシズムの抒情だが、ある
意味、アイデア賞物ストーリーだ、無論、作者の中に潜む故郷
の思いが書かせたにしても。

 この作品後は1968年、『吾妻山』で太宰治章候補になって、
受賞はかなわなかった。それ以後の作家活動はほぼなかったと
思われる。


   須田作次 1962

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