中尾佐助『栽培植物と農耕の起源』世界を実際に見て歩いた強み、生態学的視点から独自の考察
農学部進学というと、人からやや異様に思われかねない
雰囲気はある。無論、東大理科Ⅱ類の定員の半分は農学部
だというが。私もごく最近、園芸の真似事を初めてそれま
で全く知らないことに数多くぶつかった、といって慰みで
のバラ栽培でも、かなり学ぶべきことは多い。当然だろう。
文化というとすぐ、芸術、数理系科学、工業、文学などを
思い浮かべるものだが、文化の起源は実のところ、農業、濃
耕にある。野草の採集とか、狩猟からさらに進んで一定の耕
作を行って種子をまいた時代から人類文化は始まったt、とい
って過言ではない。無論、現代も人類の食料は農業に全面的
に依存している。
多くの栽培作物は長い長い歴史から、米、麦、多くの野菜、
果物、油脂植物、全て人類の至宝である。分子生物学などの
派手な生命科学は華々しいいが、現実、もっとも重要な農業
となると育種理論もとうてい完成の域にはないと思える。
栽培植物の起源は、古典的なド・カンドルの名著以来、労作
が数多くあったようだが、無論、農学部に進んだわけでもない
私には縁がなかった。こうしたなかで、近年発達の生態学の立
場から、著者は世界の農耕文化を5つのタイプに分けて、その
先で独自の考察を、学説を述べているようだ。
著者は小麦の起源については、その筋の権威、木原均の門下
にあって、栽培植物に詳しく、ことにネパール、ブータン、ア
んですなどを実際に見て歩き、その経験の強みをこの小冊子で
いかんなく発揮しているようだ。
東南アジアの熱帯に生育の「根栽農耕文化」はサトウキビ、
タロイモ、山芋など、さらに最も歴史の古い栽培植物である
バナナを作り上げた。
アフリカの草原はササゲ、ひょうたん、ゴマを、「サバンナ
農耕文化」
北米、南米大陸はじゃがいも、とうもろこし、カボチャなど
の「新大陸農耕文化」さらに菜豆を生んで、全二農耕文化の混合
だという。
栽培植物の王者、イネ、ムギによって代表される禾本植物、
野生との相違は一年性であること、茎が太く強いこと、さらに
野生種のように穀粒が触れたら落ちることがない。こうした農
耕文化を作り出したのは「地中海農耕文化」
日本人がもっとも知りたいのはイネについてだろうが、その
記述も十分多いと思う。その野生地としてインドを挙げている。
夏作物と冬作物、野草と雑草については明快な解答らしきもの
が見られない。イネを湿地帯の雑穀とみて、野生種とのつなが
り、オカボと水稲には独自の考察が見られる。
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