『ピカソとの生活』1965(新潮社)フランソワーズ・ジロー、カールトン・レイク、別れた妻の描くピカソの素顔

者は違うが、その内容は最初のこの本と趣旨は変わらないと
思われる。日本で最初に訳出されたのはこちらである。著者、
二人も共通である。
1943年にピカソと知り合い、恋に落ちて10年にわたってピ
カソと生活し、二児をもうけ、ついに離婚したフランソワー
ズ・ジローの手記をカールトン・クレーがまとめた英文が原
著である。この本はピカソを激怒させ、その友人からさえも
抗議を受けたという。それが私生活の暴露というプライバシ
ーの侵害のみならず。内容自体が大いに誤解をもたらす、曲
解に満ちたものだというのである。が、この本は原著の英文
から仏語訳や他の多くの言語に訳されて出版された。

この本はしかし全く真摯なものだろう。ピカソの、その10
年間の素顔を別れた妻から描いたものである。いわばドキュ
メントである。数多いピカソ文献で、その意味で貴重なもの
である。
多くの興味ある内容が込められている。その私生活的な部分
にどうしても興味が行きがちなるが、ピカソ自身の芸術につい
ての考え、その友人のマチス、ブラック、レジエ、ジャコメッ
ティ、フージロンなどによるピカソの作品批評が価値があると
思える。またカサノーバ、アラゴン。エリュアール、ブルトン
、マルローなどとの交友に表れるピカソの言動は本当に有意義
な面白さに満ちている。もとの手記、フランソワーズの優れた
感性の産物である。
フランソワーズとピカソが出会った後、そのピカソの求愛の
エピソードも実に面白い、同時に徐々に冷却化していく二人の
愛情、その時期からの辛辣な記述が目立つ。とにかく相手は
ピカソだ、激しすぎる自我の固まり、強烈な個性、脂質、鋭い
批判精神、それらの芸術家としてみたら優れた資質がフランソ
ワーズには逆に耐えられないものになったというのも自然な話
かもしれない。それはフランソワーズには当然な、自然なこと
でも、世間に蔓延のピカソ像はまた虚像であるということにも
つながる。本書への非難は偶像破壊への批判というのが本質で
あったと思う。しかし、括弧付きで本書が独自の提示のピカソ
の人と思想への注釈は重要な資料となる。
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