『世界の人間像』第17巻(角川書店)ジョルジュ・サンドとその恋人たち,男性遍歴のすごさ

まず角川書店の企画、出版の『世界の人間像』全26巻とい
う。昭和36年、1961年から昭和42年、1967年に刊行された。
はて、こんな全集があったのか?とつい、思ってしまうが、
その内容を見ると面白そうだ、第1巻が「パリの王様:大デュ
マ、愛の煉獄:ドストエフスキー、眼中の人:芥川龍之介、菊
池寛、・・・・。などで481頁、第2巻は「天才チャプリン」他
三浦環など全部で5人、第23巻はマゼラン、シュリーマン、コ
ロンブスなど、第5巻はカーネギー、ピュリッツァー、渋沢栄一
、村山龍平、第12巻はマグダリーナ・シゾワによる「世界のバ
レリーナ:ウラノワ」、さらに「モリエールという名の俳優」
など、
実にユニークで興味を惹かれるがさりとて、関心の持てない
人物も多く、全巻揃える必要はさらさらないだろう。
で第17巻はジョルジュ・サンド、ホフマン、ストリンドベリイ
、最もこの巻で親しめる人物は我らがジョルジュ・サンドに違い
ない。ジョルジュ・サンドの裏面について知っている人は知って
いるが、普通はまず少年少女世界文学全集の『愛の妖精』とか『
ものをいう樫の木』の作者というイメージ、さらに詳しい人なら
『レリヤ』、『アンディアナ』の作者として情熱的な女性を思い
浮かべるだろう。『魔の沼』を読めば、これを読む人は相当の
物好きと言えるが、素朴な農民の姿を観察する田園小説作家を思
い浮かべるはず、音楽に通じた人ならショパンやリストの恋人と
いう側面を思い浮かべるだろうか。
でそれらは正しい認識だとは思うが、全体像はどうか。サンドは
1831年に文壇に出て亡くなった1876年まで、98巻に及ぶ小説と32に
及ぶ戯曲、数多くの評論、エッセイ、無数の書簡、を残していると
いう。
それだけで大したものだが、プライバシーにほぼ絞って書いてい
るのがこの本であり、それも男性遍歴である。二人とか、三人なん
てレベルじゃなく、亭主のカジミール・デュドバンなど、亭主が影
が薄い。有名なところだけでもミュッセ、ロスト、ショパン、フロ
ベール、サンドの燃え上がる情熱の相手は枚挙にいとまがない。バ
ルザックが「サンドは生まれつきの偉大な情熱を持っている。だが
波乱を伴わない偉大な嬢別というものはないのだ」というように、
彼女の一生は相手の生を食い尽くしてしまうというものだった。だが
男性遍歴はいかに多くとも、やはり本質ではない。あれだけの作品を
残したということ、こそが本質である。「さしみとビフテキ」とはい
うが、読者はその両方を消化する能力が必要ということだろう。
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