『ゴーガンの生涯』アンリ・ペリュショ、ゴーガン(ゴーギャン)の伝記としては随一か


 1664447.jpg著者のアンロ・ペリュショ、Henri Perruchotは近代絵画の
巨匠の伝記を数多く書いて実に評価の高いフランスの作家で
ある。ゴッホ、セザンヌ、ロートレック、マネ、ルノワール
といささか、総なめという趣さえある。これらは「芸術と運
命」というタイトルのシリーズとして刊行されたものだそう
である。ペリュショによる伝記は小説家としての創造力、
構想力が実証的研究と結びついている、という正統的なもの
であり、実に内容は精細を極める。伝記作家はこの世に多い
が、その代表的な存在であり、随一の伝記作家という評価が
ある。

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 全く腐りきったき欧州の文明社会に見切りをつけ、タヒチの
自然なある種の原始生活に失われた、いわば黄金郷を見出した
ゴーガン(ゴーギャンとも、発音に忠実はゴーガン)神秘的な画家、
高貴にして野蛮人という難しいイメージのゴーガンは伝記作家
からみれば魅力ある存在であり、他にもゴーガンの評伝、伝記
は少ないと思う。翻訳書を見ても廃刊も含めれば結構ありそう
だ。ゴーガン自身が世に知られている『ノアノア』もるのだが、
サマーセット・モーム『月と六ペンス』ゴーガンのモデル小説
だが賛否はある。あまり絵画を理論的に理屈っぽく述べるのも
いかがなものだが、印象派から出て総合主義を主張し、目で現
実に見える外界の世界ではなく、内面、その内部を見抜いてそ
の内在するものを表現しようとする、いわば思念の表現こそが
真骨頂ということのようだ。美術史には私も表面的なことはさ
ておき、その思想的な部分にはこの本で初めて触れた思いであ
り、ゴーガンの絵画が美術史上で革命的なものであったことは
間違いない。ゴッホと比べた場合も興味深いが。

 デ、ペリュショのゴーガン伝は、そういう観念的なものを
すべて渾然一体というのか、まとめがよく、あくあmでも実証
的に再構成されたゴーガンの生涯を丁寧に綴る趣である。

 なんとも運命にもてあそばれて過ごした幼年期のペルー時代、
妻との不遇な結婚生活、金回りが良くなった株式の仲買人、
それから貧しい画家への転身、画壇内部、印象派内部での確執、
ゴッホの耳切事件とか、タヒチでの貧乏生活、なんとも多くの
資料が動員されて述べられている。実証的と云うが、それしか
アプローチの方法はなかったはずだ。

 だが執筆のスタンスは実証的でも描かれるゴーガンの考えは
「実在するものは夢であり、現実ではない」というある意味の
、絶望的な考えである。夢幻的といって済まされない。現実と
の絶えざる衝突、宿命と現実の葛藤の果てにあったもの、55歳
出終わった人生は夢であったのかどうか、多分そうだろう。 

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