三浦哲郎『笹舟日記』語り口はいいが、甘すぎる気もする

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 三浦哲郎とは青森県八戸の出身、作品にその八戸が大きな
位置を占めている、・・・・・どこかで読んだが、三浦哲郎
の家では、作家になってからだが、4月10日には「ゆで卵」を
食べる習慣があったそうだ。東京で貧困で生活に行き詰まり、
母や姉の住む八戸に「都落ち」した日に、上野の不忍池のベ
ンチや夜行列車で食べた「ゆで卵」を思い出し、初心忘るべ
からずで精神を奮い立たせたのか、どうか。この「笹舟日記」
4月10日は皇太子の御成婚の日で、「私は大学を出て三年目だ
ったが。御成婚は昭和34年、1959年で大学を出て三年目、・・
・・・なるほど、1931~2010,そんなものかな。

 「私は戦争中に旧制中学に入学したが、三年のとき終戦にな
り・・・・」

 「忍ぶ川」も舞台は八戸、映画の女優さん、印象に残る。と
もかく次々と出てくる打ち明け話、なんというか、語り口が巧
いのである。内容自体は取り立てて云うほどのものもない気は
するのだが。この語り口をリアリズムとか自然主義、というの
は、つまらぬイズム詮索だろうな。別に読者を憂鬱にもさせず、
、共感を誘って引き込まれてゆく。なんとも、その語り口自体
が武器なのだ、作家だから当たり前だろうが。

 目の不自由な姉が琴のお師匠さんをしている。その姉の稽古
場で、いわゆる「相弟子」だった、芸妓だった宿屋の女将の死
を悼む思い出話など、いたって、いうならば珠玉の作品、しか
も小品だろう。

 田舎の中学で教え子だった、今は舞踊家となっているその女
の子と、旅先で思いがけない邂逅、それもいたってさりげない。
悪い方向に勧めば、すごい女たらしになれそうだ、と内心、思っ
たりする。中学時代の剣道の教師から送られた木刀をふるいなが
ら、その教師の思い出話、読めば納得のその実力というものだが
、家庭の内輪についての語り、ちょっと甘すぎる気がする。語り
口の巧さはいいが、それが過ぎると甘すぎる印象を与えてしまう
と感じる。二人の姉は自殺、二人の兄は失踪、と現実は容易なも
のではなかったのだが、葛西善蔵にならずに済んだのはその人徳
というべきか。

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