徐州陥落と都井睦雄事件、「津山三十人殺し」を生んだ日中戦争!大戦争、大量殺戮の序曲

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 事実ではないが、誤りとして横溝正史『八つ墓村』角川
文庫初版の解説で、関連する過去の事件として、昭和13年、
1938年5月21日未明、岡山県加茂郡西加茂村で起こった都井
睦雄の大量殺人事件を挙げている、そこで「戦時下で新聞
報道もなされず」と中島河太郎さんの解説、これが全くの
誤りであることは当時の合同新聞(戦後の山陽新聞)を見
れば明らかで、それは多くの著作で述べられている。

 ただ、なぜこのような誤解、「報道も差し控えられた」と
いう誤りが流布されていたかと云えば、換言すれば、現在で
考えるほど、決して、この大量殺人事件が全国の耳目を惹か
なかったことの結果である。それは日中戦争も盧溝橋の衝突
以来、いわば「佳境」であり、勝ち戦の連続、占領地は広が
るばかり、都井睦雄事件の翌日、「徐州陥落」の大報道がな
され、岡山の山間の、しかも盲腸的な超僻地での三十人殺し
など、日中戦争、その一つのランドマークの徐州陥落などに
伴う「超大量殺害」に比べれば、さしたる殺害行為でもなかっ
たわけである。

 したがって都井睦雄事件、現在は「津山三十人殺し」と呼ば
れるようになって、ますます興味と関心を集めている事件も、
実は戦前は僻地集落での一つの異様な事件ていどにしか思われ
ず、あまり知る人もなく、戦後もその傾向は続いたのである。

 
 都井睦雄事件の翌日の合同新聞の第一面、「徐州陥落」の
大報道である。「包囲陣縮小に呼応、敵の大部隊を痛撃、わ
が陸の荒鷲隊の活躍。という見出し、戦車隊と徐州を爆撃す
る陸軍機の航空写真、

 「陸軍飛行隊田中、神埼、衣川、上田、竹田各部隊の荒鷲
~機は本日午前七時旭光を浴びつつ、一斉に基地を飛び出し、
徐州南方の山峡地帯の上空に現れ、山麓の陣地及び峡谷に潜む
敗残の敵部隊に対し、猛烈なる反復だいばくげきを敢行、・・
・・・・・・我が荒鷲の投弾は確実無比にて全弾命中、岩石と
ともに砕け散る敵兵、蠅のごとく逃げ惑う敵残兵、更に包囲陣
を逐次縮めつつあり。山岳地帯における我が殲滅戦は大平原に
響き渡る爆弾炸裂の音、鉄砲の中に多大の成果を納めた」

 その日の二面が「都井睦雄事件、西加茂村の大量殺人」である。
戦時下、日中戦争下で報道規制が入ったというのは事実ではない
ことは明らかだが、それがあたかも報道されなかった、という
誤解が戦後しばらくまで蔓延していたのは、同時に戦争という超
大量殺人が行われ、それに日本中が喝采しているという状況で、
しょせんは30人程度!の殺人など、さして衝撃的でもなく、それ
より日本全体が日中戦争に熱狂していたというわけである。

 では都井睦雄はなぜあのような凶行に走ったのか、それは想像
を超える山間の盲腸的で先に行き場がない、盲腸的集落での、夜
這い、亭主のルスに関係を持つなどという淫靡な性習俗、とは
いそれをいうなら何も貝尾集落に限ったことでなく、正直、日本
の農村部、集落に普遍的に存在していたのである。夜這いっとそ
の破綻が原因と云うなら、日本中で大量殺人が起きてもいいが、
それはまず滅多以上に起きていない。貝尾集落がいかに僻地とは
いえ、日本に僻地は限りなくあったのである。

 要は都井睦雄の資質であるにせよ、大量殺人の引き金は戦争に
熱狂し、「我が軍、大勝利」を報道し続ける新聞、だからといって
すべての若者が戦地にいくこと欲していたわけではないし、徴兵
忌避も多かった。私の叔父などは徴兵がいやで町医者に偽の診断書
を書いてもらって事実上の徴兵忌避を行ったという。・・・・・
三島由紀夫だってそうだ、結核がどうかの正確な診断が徴兵会場で
出来る道理はないのに、巧妙に振る舞って徴兵を免れた。だが翌年、
東京帝大法学部では教練を受けている、それは神戸大教授で学籍番
号は三島より一つ前だった早川武夫戦争が証言している。

 つまり都井睦雄の結核と言うのは何ら信憑性がないし、あの体力
は全く結核患者のものではない。世はひたすら大陸に行って戦功を
挙げるのが男子の最大の栄誉とされていた時代である。徴兵忌避の
願望があったわけでもない都井睦雄が、徴兵不合格ということを狭い
集落に知られたことが、戦争に特別行きたいわけでもなかったが、
大いに面目を女性関係の点で失ったことは当然である。

 あの事件の夜の都井睦雄の出で立ち、ブローニング銃、日本刀な
ど、軍服はないから、詰め襟学生服、ゲートルという最大限の兵士
仕様となり、大陸でなし得ぬ大量殺人をこの限界集落で行った、遺
書に書かれた理由は逃げ口上である。本音は遺書にも書かれないも
のである。

 都井睦雄事件、津山三十人殺しを生んだのは日中戦争と言って
何の過言でもない。私には都井睦雄の大量殺人はどう考えても、
さらに続く対米戦争など、空前の大量殺戮、犠牲の序曲としか思
えないのである。

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