吉行淳之介『湿った空 乾いた空』個性派男女の旅行記、何かむかつく吉行淳之介と宮城まり子のパートナー関係
「私」と「女優M」、最初に言えば「私」は吉行淳之介で
あり、「女優M]とは女優の宮城まり子である。宮城まり子さ
んはご存命?改めて調べたら2020年にお亡くなりになってい
たんですね。
で、これは旅行記、まず類例のない贅沢で型破り、最高に
個性的で粋な男と女の外国旅行記だ。見て歩いているのは、
ではどこ?まず自分自身の内部の、いわば心象風景だろうか。
同行する女優M.宮城まり子さん、が「美術館と協会井と公
園と芝居」などをニューヨークに来てから、朝から見て歩い
ているというのに、「私」吉行淳之介は昼過ぎまで寝てテレビ
で野球を見たりしている。
マドリードに十日いた間に、「私」がディナーのため外出し
たのは二回だけ、宮城まり子さんは朝から精力的に街を回り、
所帯道具に類するものまでバンバン買いまくっている。ついに
電話機まで買ってくる。移動するたびに、私は電話機を片手に
下げて歩かねばならない。
というユーモラスで粋な、つまるところ並ではない男女の
旅行記である。だがM、宮城まり子は著名な大女優であり、ま
た歌手である。「私」には別れた妻、子供がいる。これをテー
マにした作品としては「闇の中のs祝祭」がある。
「湿った空・・・・・」もその延長線上だろうが、宮城まり
子さんと吉行淳之介は必ずしも仲のいい同行者でもない。つま
るところ、吉行と宮城まり子さんは不倫関係ということ、とい
って当時、すでに吉行が離婚していたら不倫でもないだろうが、
実際どうだったのか、よく知らない。
要はいたって繊細な日本人作家である吉行淳之介は、何があろ
うとさらっと知的に処理している。いがみ合いの喧嘩でもなく、
じめじめした争いでもない。吉行の死後、ねむの木学園の中に
吉行の文学館が建てられた、というのだから、まあ。
タイトルを借りたら「乾いた」透き通った争いであり、いたっ
て純粋なるエピキュリアンというべき吉行の疲労感である。
賭博の街ラスヴェガスやモナコの話、文芸評論家が浮気をして
妻に殺されるというフランス映画「柔らかい肌」の感想とか、自
分の皮膚の具合から欧州は湿っていて、アフリカは乾いていると
解釈したr、パリで宮城まり子さんから1000ドルもらって街に娼婦
を買いに行くとか、しまいには体調不良で美術館からホテルまで
汗だくで歩いたとか、
なんでも吉行はローレン・スターンの「感情旅行」にならって
、タイトルを「私の外国感情旅行」とするつもりだったという
「感情旅行」のように、本筋から離れて横道にさらに横道にという
感情本位の旅行だが、まあ、楽しそうだ。
でも普通の男性には、宮城まり子なんて疲れて相手にできるよ
うな女性じゃない。女性に何かを吸い取られて亡くなったのだろ
うか。
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