結城昌治『長い長い眠り』この名文はやはり推理小説界の石川淳か

結城昌治さんの初期の作品でいまなお刊行され続けている
ようだ、推理小説であるが、結城昌治さんはそれを越えたと
ころにある、真の作家だった。それを見抜いたのか「推理小説
界の石川淳」という評価が早速提示されたのが、この作品だ。
神宮外苑で、上はYシャツ、下はパンツだけという恰好で中
年の男性の遺体が発見された。口ひげにメガネ、だが身許が割
れない。自殺か他殺か、自殺とも思えないが、確定されない。
アトロピンによる他殺という検視の結果、直後に身許が判明し
た。
あり電気会社を経営の業界では辣腕で通る野平研造とわかっ
た。目立つことと云えば無類の女好き、手当たり次第に女に手
を出したという。最後の妻も何人目かわからないくらい、その
好色ぶりはいたって開放的だったという。だが、解明には結局、
「女を探せ」というある法則に従うしかなかった。最後、という
か現在の妻の三輪子、離婚される不安に怯えていたという。これ
も動機になり得るが、殺してどうなる、である。だが宮坂という
眼科医と関係していた。また朱月という女性は俳句が縁で野平と
親しくしていた。
だがそれ以外にも疑惑を持たれてもいい人間はいる。野平の部
下、成沢春風(余談だが結城さんは名前に苦労している?)は野
平に媚びへつらいで行動も不審がある、新宿の酒場のマダム、胡
蝶、また野平の学生時代の友人で野平に妻を横取りされた薮下と
いう獣医、
などなどが疑惑を向けられ、から騒ぎを演じるが、推理小説の
常で犯人は意外なところから、これは推理小説の娯楽性を求める
しかなかった結城さんの苦心と言うか、つまらぬ妥協である。
それがあまりに突飛で、いかにも作り物を感じさせてしまうのも
、ある意味やむを得ない。
だが私はこの作品に現れている結城昌治さんの純文学作家とし
ての素質である。そのなんとも微妙な感情表現、ユーモアはこれ
は凄いと感じる。推理小説界の石川淳だと評したひともいたそ
うだが、それは納得だ。素晴らしい作家だったと思う。
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