ダビドビッチ『ユダヤ人はなぜ殺されたか』大谷訳、ナチスと連携したシオニスト同盟という説

邦訳が出たのは1979年、その基本的な視点の重要さの価値
はいささかも減じていない。900万人のユダヤ人がナチス支配
地域に住み、600万人が殺された。ダビドビッチは、「近代国
家が一つの民族全体を、ただユダヤ人というだけで組織的に大
規模に殺害した。なぜそのようなことが可能だったのか?」と
いうのが第一の設問である。それを第一部「最終的解決」にお
いて著者は答えを提示する。
長い歴史においてキリスト教社会の反ユダヤ人の風潮は徐々
に顕在化し、ドイツにおいてはは宗教改革でルターによる諸侯
への反ユダヤ対策の要望がなされた。
統一国家形成が遅れた後発のドイツでは、18世紀から19世紀
にかけて、進歩と啓蒙が進むイギリス、フランスに対していか
に自国のアイデンティティを確立すべきか、そのある種のコンプ
レックスにさいなまれる結果になった。フィヒテもヘーゲルも、
いわばこうしたコンプレックスの産物という見方も出来る。しか
もドイツでは進歩と啓蒙を叫んだのはユダヤ人が主体であった、
このドイツ人のコンプレックスはナショナリズムになるに従い、
反ユダヤ主義のならざるを得ない面はあったという。
かくして著者は近代ドイツのユダヤ人排斥、反ユダヤ感情と
ドイツナショナリズムの結合でなされた私生児が、・・・・・
とし、そこからゲーテ、バッハ、ベートーヴェンを生みながら
最終的にヒトラーを生んだと考える。
第二の設問、「一つの民族全体が絶滅されるままになった。な
ぜ可能だったのか?」
これに対する著者の回答が第二章「ホロコースト」である。
ここでは虐殺の状況を克明に追う、シオニスト連盟が、ドイツ
国外にユダヤ人を連れ出すということでナチスと連携するとい
う、意外な指摘がされている。著者は身内をガス室で殺害され
ながら、抑制した筆致である。反ユダヤ主義の思想を負いながら
、社会的原因を問い詰めていくが、それがどうも不十分な気がす
る。シオニスト同盟だけなのか?信じがたい、
ユダヤ人が住むアラブ世界ではホロコーストは起きていない。
何故近代キリスト社会に起こったのか?ヨーロッパの近代が南米、
北米、アフリカ世界の犠牲において成り立っていたことに起因し
ているのではないか、疑問は湧いてくるのだが。
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