藤田晃『立退きの季節』1984.平凡社:日本人強制収容所の長屋的な日常
日米戦争の遠因となったのは日本でいうと大正時代から
のアメリカでの激烈な日本人移民排斥運動で結果は徹底し
た法制化が行われ、日本に一時帰国した日系移民もアメリ
カに再入国を許されなくなったほどだ。中公新書『排日の
思想』はトータルで最も白人社会での日本人排斥、差別的
偏見を述べた本であると思うが、大正末期から昭和初期、
日本では「日ベ戦わば」という類の日米戦戦争の発生を予
見した数多くの本が出版された。その結果、真珠湾攻撃で
アメリカ政府は日系移民を砂漠の強制収容所に隔離する処
置をとった、別にドイツ人はには行われていない。
その強制収容所の実態、どのような生活科を述べた貴重
な本である。
著者の藤田晃さんは1920年、カリフォルニア州で生まれ
た。だが学校教育は日本で、アメリカに日系の子供が行く
ような学校がなかったのである。帰米二世の方で作家であ
った。収容所時代から長く、いくつかの同人誌を主宰され、
黙々と書かれてきたという。1982年に、1930年代のカリ
フォルニア平原を舞台に、父親の農業を手伝う、帰米青年
の鬱屈した日常と心理を描いた作品集『農地の光景』で話
題になったという。
この『立退きの季節』はその続編としての意味合いがある。
連作風の長編である、強制収容所行きを余儀なくされた青年
の、しかも帰米青年の目を通して収容所での日系人の日常を
描いているのである。
冒頭は「健束」で収容されるまでを描いている。ここが実
は印象的で、無学な一世の父親がFBIに連行された後、なお農
業に従事の青年、主人公がフィリッピン人やメキシコ人を使
っての継続に自信がなく、結局、自分も収容所域で農業経営
の負担から解放され、なにか安堵する様子。逆に隣地の高齢
女性が示す土地への生理的愛着、その対照の妙。彼女は日本
は真珠湾奇襲攻撃さえしなければこんなひどい目に、と愚痴
をこぼす。祖国を恨む。
収容所内の生活、主人公はクールに描く。通常想像するよ
うな陰惨なイメージはなく、何か長屋暮らしのような雰囲気
がある。その江戸時代の長屋の生活を彷彿とさせるのは多少
は微笑ましい。
めったに見られない若い娘の肢体を見てほくそ笑む若者、
ポーカーに興じる独身男、編み物に精を出す主婦、コロラド
川での魚釣、日本風庭園を築造し、池作りやクリスマスのダ
ンスパーティー、スポーツ大会、収容所生活をいささかでも
楽しいものに、という日系の庶民の工夫が随所にみられる。
妙に日本人の芸の細かさが目立つ。
といってたほうで、国粋派の暴力事件、アメリカへの「忠
誠登録」をめぐる葛藤、などイロリオだが、なによりもその
半ば牧歌的?な収容所長屋の生活ぶりである。楽しいばかり
ではないはずだが、読ませる内容だ。
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