ロアルド・ダール『誕生と破局』短編集「キス・キス」(早川書房』より、アドルフ・ヒトラーの誕生
イギリスの作家、ロアルド・ダールの短編集『キス・キス』
早川書房、開高健訳1960,に収録の短編『誕生と破局』アドル
フ・ヒトラーの誕生の模様を描いたものだ。この作品は、アド
ルフ・ヒトラーの誕生の模様を、相当正確な事実と調査に基づ
き、書かれたものだそうだ。まずは引用である。代表先として
「チャーリーとチョコレート工場」がある。
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「どこにも異常はありませんね」と医者は云った。
「まあ、ゆっくり休むことでしょうな」何マイルも遠くから
伝わってくる声だが、そのくせ彼は女を怒鳴りつけているよう
な気がした。(電話の向こうに亭主がいる)
「男のお子さんですよ」、・・・・女「なんですって?」
「ご立派な男のお子さんです。わかりますね。立派な男の子、
泣声が聞こえたでしょう」
「赤ん坊は丈夫ですか?先生」
「もちろん、大丈夫ですとも」
「私は子供が育つように、神様においのりばかりしてました。
先生、今まで一人も子供は育たなかったんですよ」
医者はベッドの傍らに立って、青白い、疲れ切った若い女の
顔を見つめた。この女の亭主は国境の税関の官吏だ。小男で、飲
んだくれで横柄な男だった。男は三度目の結婚だった。最初の妻
は死んで、次の妻は離婚した。
三度目のこの若い妻は、四年間で四人出産し、三人すでに早く
なくしていた。四人目が今度である。しかも赴任の途中の宿屋で
産気づいたのだ。
生まれた子供は小さく、ひ弱そうだった。母親は抱き上げて、
その軽さを不安に感じた。「この子は無事に育つかしら」とし
きりにつぶやいた。気は優しそうだが、生活の疲れが若さをなく
させていた。
濃い緑の制服を着た男が入ってきた。亭主だ。
「どうだった」身をかがめ、亭主は赤ん坊の顔をみつめた。
「この赤ちゃんは肺が強いですよ」と宿屋の女将が言った。
「だがな、クララ」と亭主
「元の木阿弥、もう一度やり直しになるんじゃねえか、こんな
に小さいし、ひ弱そうだ」
女将は亭主に向かって
「あなたは何をしようというんでしょうか?赤ちゃんを墓に
やるつもりですか?ヒトラーさん」
若い母親は激しくむせび泣いた、・・・・
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アドルフ・ひとらーがいなくても第二次大戦は起きていたであろ
うか、もし起こったにせよ、戦争の形相は違ったものだったはずだ。
この作品は、「破局」はこのひ弱な赤ん坊の誕生に始まった、という
ことだ。儚くも無惨だ、・・・・・
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