ノエル・ヌエット『東京のシルエット』新版1974,第二の故郷への相歌

まずノエル・ヌエットとはNoël Nouet、1885年3月30日 ー
1969年10月2日、フランスのブルターニュ生まれの詩人、
版画家、画家、1930年、二度目の来日、戦時下も日本で過ご
し、1961年帰国、1969年死去。戦後辰野隆に東大文学部フラ
ンス語講師の座を譲ってもらった、・・・・・。そのヌエット
さんが1954年に出した本である。古書でかろうじて入手できる
だろうが少ない。初版も新版も法政大学出版局からである。
初版時点で在日は25年近い、東京への愛情が生んだいたって
心温まるエッセイ集である。
関東大震災、1923年の直後に最初の来日、いったん帰国し、
昭和5年となる1930年に再来日、以後、継続して1961年の帰国
まで滞在した。かの駐日フランス大使、クローデルのように、
仕事の合間には散策し、またスケッチを行い、また「異邦人の
目」で日本についてエッセイを書いた。そのエッセイは通常、
日本人が見逃しがちな鋭い指摘が多い。
別に一時滞在の旅行者ではなく15年戦争の動乱、戦後の混乱
期も一貫して日本に住んだという、その本物差が説得力を与え
る。ラフカディオ・ハーンの日本論が説得力があるのも、日本
に根を下ろしたという、実際の生活者であったことと共通のも
のがある。日本史上でも破天荒な空襲の惨禍なども共有の異邦
人はそれほどいるものではない。
多くの西洋人は興味本位に日本古来のものを賞賛しきり、と
云うのが常だが、ヌエットさんはそのような固定的な思い込み
はない。日本人の親切さの美徳も指摘するが同時に、日本人
にありがちな子供じみた傲慢さをも指摘する。日本人にはもっ
と批判精神、知的活動に正確さ、緊密さが必要であり、女性も
もっと広い教養を身に着けるべきだと述べている。もっと生活
に一般人も知的な部分が必要で、まともな社会人や、また女性
たちがパチンコに入り浸る醜態を子の西洋の詩人は悲しんで
いる。確かに恥ずかしい日本の面だが、今なお改善されない。
文章の間に添えられるスケッチ、ペン画だが素朴なものとも
云えるが、戦前のものを含め、戦災から戦後まで、東京の当時
の雰囲気がしのばれる。上野東照宮で横倒しの石灯籠や、堀端
の柳の井戸のスケッチは風情がある。
東京にビルが増えるのは当然とし、近代都市発展の条件と
述べるが同時に、一隅の木石の前にたたずむという詩情の豊か
さはこの本の魅力である、
初版時に69歳である。同時に「東京の歴史」というライフ
ワークを執筆中だという。それが実際に世に出ているのかど
うか、私は初版しかみていない。ライフワークの歴史が大きな
河というなら、このスケッチを交えてエッセイは、傍流の、せ
せらぎにと云うべきか、第二の故郷、東京に寄せる相聞歌だろ
う。






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