魯山人『春夏秋冬 料理王国』中公文庫、割り切った含蓄ある料理論

この本は魯山人、死去の翌年に京都の淡交新社から刊行さ
れ、現在は「中公文庫」から出ている。魯山人は1883年、
明治16年に京都の上賀茂の社家に生まれた。基本はすべて独
学である。料理の大家として知られている。大正期に「美食
倶楽部」、「星ケ岡茶寮」など創業した。特に「星ケ岡茶寮」
の創業者としてよく知られていると思う。辛酸を舐め尽くし
た不遇な中から、あの趣味性を育んだ情熱は確かに畏敬に
あたいする。
書画骨董もあるがやはり魯山人の真骨頂は料理だろうか。
京都の名店を回ってやろうとか妄想に駆られているのだが。
別の魯山人が調理の名手というわけでもないだろうし、魯山
人が作った料理がう美味しいわけでもないだろう。しかし、要
はその料理哲学というべき思想だ。
むろん、和食であるが、例えば村井玄歳の鮎の話に
「東京人はきれい好きで贅沢だから、好んで鮎のはらわたを
除いたものを食う」
という点について、「これは、たまたま当時、急便で輸送が
不可能だったこと。東京にはらわたが付いたままの鮎が入れな
かっただけの結果であり、村井玄歳の味覚の幼稚さを暴露した
ものだ」
まことに独断だが、京料理の和食の秘訣も魯山人の哲学に
あるのだろうか。
基本は非常に独断的であり、パリのツール・ダルジャンの
アヒル料理を、肉のカスを食うようなものだ、とか、納得させ
られるものはある。すべてが魯山人の言う通りかは別問題であ
るが。
しかし「お茶漬け」については同感する。
納豆、海苔、塩昆布、塩鮭、まぐろ、天ぷら、はも、あなご、
クルマエビゴリの茶漬けと、気の利いたお茶漬けは仰々しい
贅沢料理に飽きた人には最上の料理だという。それはそうだ。
その際に、海苔は片面だけ焼くように注意し、
「すべてのうまい料理の秘訣はこのような、ちょっとした注意
にある。なるほどと聞き流してはダメ、ただちに実行するという
ことが大切」
教えられるものは多い、しかも秘訣だ、京都の名店も読んてい
るのではないだろうか。
現実、海苔の片面だけ焼いてお茶漬けがどれほど美味しくなる
のかわからないが、その心意気だろう。
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