野尻抱影『英文学裏町話』1955(研究社選書)快盗伝部分が面白いかも
・・・野尻抱影という方は大佛次郎の実兄で非常に著名な
方であった。1885年生まれ、早稲田英文卒、早大講師、研究
社編集部長を長く務めたが、同時に星、天文学に関心を持っ
て独自に研究を重ね、この方面の著書が多い。だがベースは
英文学、英語研究となる。この本は研究社選書として1955年
本来は英文学専攻の学生を対象として刊行されたものだが、
選書でもこの本だけは変わっている、というようで、まあ、
編集部長が書いているのだから自由さがあったのだろう、
一般読者でも十分楽しめるものになっているようだ。現在は
古書でしか購入できない、「日本の古本屋」サイトである。
やはり大佛次郎の兄だけあって文章は巧み、軽い読み物風に
仕上げるのは得意のようだ、専門家ヅラのや野暮ったさもな
いと思う。
17世紀末ころから18世紀にかけてのイギリス社会は、日本人
には想像もつかないが、非常に興味深いものであるという。
現在のイギリスからは想像もつかないような野性的な気風で、
荒削り、それで伝統的な悪徳と騎士道的な精神が入り混じって
いた、奇妙な状態だったというが、野尻さん自身も実際に体験
されたはずもないが、これが学識のなせるわざなのだろう。
いろいろな社会立法で強者の権利を制限し、弱者を保護しよ
いうという、非常に人道主義的な精神が社会に生まれたのは実
際は産業革命以後あだそうで、その社会悪が目に余った19世紀
以後の話、それ以前はまだまだ貴族の圧倒的優生社会だった。
18世紀のイギリスはまだ、食えなくなれば、弱いものは乞食
になって路上で餓死し、強いものは強盗になって他人からいろ
いろ奪った、とは著名な歴史家の言葉だそうで、同時に、その
後、大英帝国を建設するエネルギーが蓄えられていった時代でも
もあったという。
よかれあしかれ、男性的時代だったそうであり、男性的社会
であった。そういう時代の産物で義賊とか、大快盗など、いた
って肩のこらない読みもの風につづっている、絶えず、英文学、
りゅうこうのうたなどを引用しているが、別に堅苦しい英文学
の本ではない。
快盗とは?選ばれているのは美貌で小姓上がり、国王チャー
ルズ二世の寵愛を得て、出生の花道も蹴飛ばして侠盗になった、
クロード・デューヴァル、また牢破りの名人、快盗ジャック・
シェパード。単に自分が盗賊であるのみならず、整然たる盗賊
の組織を創設、一方で官憲と結託し、スパイをやるかと思えば、
盗品処理のため海外に代理店まで設け、いわば泥棒稼業を企業
化したという罪の王国の社長、ジョナサン・ワイルド。名馬、
ベスを駆って一夜に150マイルを走破したという快挙でその名
を残す、ディック・ターピン、剣の名手でその剛性な生活ぶり
は貴族以上で、文人たちも交際を求めたというジェイムズ・マ
クリーン。
Jonathan Wild 、スケルトンが保存されている
だが最後はみな絞首台に送られたというから悲しくもある。
だが愛すべき快盗たち、死後も人気は絶大だったという。日本
の義賊と比べても颯爽ぶりはダンチに上のようだ。
海賊文学で知られるキャプテン・キッドの実像はみみっちい
海賊で非ロマン的な人物だったという。
快盗伝以外では短い考証もんも数篇、だが勧めあっれるのは
快盗伝だろう。
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