『ドイツ戦歿学生の手紙』岩波新書(赤版)「きけわだつみのこえ」の迫真性に劣る?際立つドライさ
戦没学生の手紙と思えば、どうしても日本の学徒出陣のそ
の手紙、あまりに切羽詰まった悲壮な内容、だいいち日本は
未経験な学生を片っ端から神風特攻攻撃に送り出した、ので
ある。・・・・・・さてその比較というのはこの本を読む際
の一つの視点となる。
第二次大戦に参戦したドイツの学生たちの手紙、二万二千
通ほどを集め、さらにその三分の一ほどを選んで訳したもの、
訳者は高橋健二名義、翻訳が出たのは実は1953年10月、昭和
28年で新潮社から最初は刊行され、現在は岩波新書赤版とし
て出ている。ドイツの戦線は北欧から東欧、南欧、フランス、
バルカン半島、アフリカ、など広大な領域に拡大していた。
したがって圧延られた手紙もあらゆる戦線からのものである
ドイツ人の編者の意図もそこにあった、と思うが、選ばれた
学生たちは深いキリスト教の精神からものを見るものばかり
と云える。だから手紙の内容も戦争のさなかにおける人間の
内面を問うものが多い。
だが当時のナチスへの熱狂も紛れもない事実であり、狂信
的な学生は多かったはずで、そういう学生たちの手紙を収録
してくれた方がむしろ、よかった気もするが。それこそ「全
人類への警告」たり得るだろう。
そこで日本の学徒出陣「きけわだつみのこえ」との比較だ
が、正直、戦争そのものへの冷厳な問い詰めがいたって少な
い、ことに気づく。戦争を運命とか、試練とか考え、「忍び
通すのがすべて」というキリスト教的?といってよいのか、
どうか忍従的考えが強い。わずかだが「国家的、国民的共同
体は、その価値を維持し、使命を実現のためなら、戦争の時
代も必要となる」、とか「戦争は人類の経験する大出血だ、
恵まれた有機体がひどい傷害を受けるので、その中に含まれ
ている特殊な組織が、最後に全体を救うために、反乱と革命
を起こさざるを得ない」というような、ドイツ的な戦争観も
示す手紙、危険な戦争観を述べたものもあるようだ。さらに
戦争で悲惨な目に会っている戦争地域の住民への思いやりの
言葉はほぼ見られない。「きけわだつみ」には、まだそうい
う人間性が十分読み取れる。
いかにもドイツ人らしい、悪い意味でのドイツ人的な形式
日本人はやはりウェットだ、対してドイツ人の無味乾燥的な
ドライさは否定しがたい。
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