ジャック・カゾット『悪魔の恋』渡辺一夫訳,健全な怪奇趣味、18世紀フランスの潮流
フランス大革命のさなか、ギロチンに消えた怪奇作家、ジャ
ック・カゾット、1719~1992,海軍省に勤務しながら多くの
怪奇作品を書いた。・・・実のところ、18世紀のフランスでは
怪奇小説が流行したという。あの啓蒙の時代に、なぜ、と思っ
てしまうが、事実はそうだったという。啓蒙思想の時代ならば
こそ、実生活でやたら合理的なことばかり強制されたら、それ
への反発から、より不合理な、幻想の世界への憧れが増したの
ではないか。だから当時の作家たちが、その対立、矛盾に目を
向けるたのは自然、であったのかどうか私にか想像すらできな
いのだが。
何よりも西欧社会に神秘、怪奇趣味が渦巻いていた、ことは
何よりも重要だ。西欧社会の精神的伝統の魔女狩りなどに潜む
神秘、怪奇趣味、作家たちもその矛盾には悩んだのだろうか。
別に21世紀でも怪奇作家が現代文化と全く異質でることに別に
悩むはずもない、まして18世紀である。ともかく18世紀、フラ
ンスはますます神秘、怪奇趣味が昂じてきた。それはカゾット
によって代表されるという。その中編「悪魔の恋」は代表作で
ある。
で、「悪魔の恋」とは?であるが、ナポリ王朝の親衛隊付き
の若い大尉が体験する異様な怪奇な恋の物語なのである。彼は
友達に教わった呪文を廃墟を廃墟で唱え、悪魔を呼び出す。と、
忽ち、真正面の窓が左右に開いて、巨大で醜悪な駱駝の首が表
れ。大口を開けて「難か御用」という。
この印象的な情景から始まり怪奇譚は、やがて悪魔がスパニ
エル犬に、小姓に、侍女に変身、若い大尉に恋をするという、
予想通りのありきたりな展開となる。フランス小説らしいと言
えばそうだが、っや通弊の極みだろうか。貴族は魔女の可憐な
風情を愛し、魔女は彼に結婚を迫る。
冒険、遍歴、ジプシーの占い、侍女に変身のビヨンデッタの
色仕掛け、若い大尉はついに屈して関係し、挙句、彼女は高ら
かに悪魔宣言を行う。ベッドで甘い声で「あなたがた人間は、
まだまだ真理など掴まえられません。あなた方は盲目にならな
いと賢くなれmせん。もし、その気がおありなら、・・・・」
こういう魔女、悪魔のささやき、というのは18世紀フランス
では特に人の心をとらえていた。フランス精神の暗部なのかど
うか、でもいつの時代でもありそうな気がする。学者さんのよ
うに18世紀、フランス精神史と高飛車に出なくとも、小説とし
て面白いのだ。典雅な趣に満ちてまた論理的に構成されている。
古い物語、とって18世紀の人間と現代の人間が別のそれほど隔
絶されているとは思えない。犬神家なんか見て喜ぶ日本の現代
人じゃないか、である。
Jacques Cazott
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