サマーセット・モーム『世界の十大小説』十大小説で世界文学が括れるはずがないが

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 ・・・あまりふれたくない本なのだが、あのサマーセット・
モームのお馴染みの『世界の十大小説』、まあごく代表的な
ものをとりあえず、と云うなら分かるが、「十大小説」なんて
本当に選べるのか、モームが日本の「源氏物語」や「大菩薩
峠」尼関心を持った様子はないし、世界のあえて十大小説と云
うなら「西遊記」だって外せないだろう、またイギリス以外で
、英語国以外であまり馴染みのない小説がかなり含まれている。
モーム自身、世界文学と云うほどの作品はついにものに出来な
かった。

 で、その十大小説とは?

 フィールディング  「トム・ジョーンズ」

 オースティン    「高慢と偏見」

 スタンダール    「赤と黒」

 バルザック     「ゴリオ爺さん」

 ディケンズ     「デイヴィッド・カッパーフィールド」

 フローベール    「ボヴァリー夫人」

 メルヴィル     「モビー・ディック」

 E・ブロンテ    「嵐が丘」

 ドスト江フスキー  「カラマーゾフの兄弟」

 トルストイ     「戦争と平和」 

 
 ・・・・・私なら世界の十大と云うなら世界あまねくでないと

 「源氏物語」、「大菩薩峠」、「西遊記」、「ドン・キホーテ」
トーマス・マンの「ファウスト」、ドストエフスキー「悪霊」、
トルストイ「アンナ・カレーニナ」、「レミゼラブル」、カフカ
「城」、「ガリバー旅行記」

 それはさておき、本書である。やはり英米文学が半数を占めて
いる。あまり非英語国民には馴染みがない?ものもある。「トム」
ジョーンズ」、「高慢と偏見」はそうだろう、『高慢と偏見」は
名作!だが。

 これら十の小説をモームが選び、その作者と作品についていか
にも自身が作家らしいというのか、それ的な長い解説を加えてい
る。作家論と作品論があり、面白そうなのは作家論である。とも
かくも研究者ではない、創作作家であるモームが、十人の作家を
まるで自分の作品の登場人物のように、なめなめしながら解き明
かす風情で、これは個性的だ。

 だがモームが一番興味をもつのは作家の私生活のようだ。また
「性生活」にも舌なめずりするようにふれている。モームの巧み
さは、些細な挿話的な伝記的事実を取り入れて、その作家の人間
性、弱点、矛盾を浮彫りにしていることだ。たとえの話、トルス
トイが農奴の娘に子供を産ませてそれを構わず自分の子息の御者
に仕立て上げた、など。え?だからどうってこと。

 作品論となると、正直、秀でている部分はさほどないようだ。
基本読者はその十大小説に選ばれた作品を読んでいることを前提
にモームは述べている。だから、読んでいないと、その個性的批
評も何か取りつうしまもないかもしれない。私も読んでいない!
つまり筋を述べて解説、という親切さはないのである。でも原作
を多少でも読んで傍らにおいて本書を読めば作家ならではの作品
論を堪能できるかもしれない。実際、小説の入門書と見れば優れ
ていると思う。

 モームの小説へのコンセプトは面白いということだ。筋が面白
いこと、が第一となる。じゃ、モームの「人間の絆」なんか惨め
なだけじゃないかと、思えるが。ともかく小説は「教えにあるの
ではなく、楽しませる」にある、というのだ。
 
 なら通俗小説はどうなのだろうか?

 「三十過ぎて創作の虜になるようなら病的だ」でも20代なんか
子供みたいなものだ、職業的作家を考えたら首肯し難い。でも、
精神が何ら病まないと作品も書けるものではないだろう。その
病的部分をモーム流に解説している。

 でも選ばれた作品、完璧性があるのは「戦争と平和」、「ボヴァ
リー夫人」、「高慢と偏見」だろうか、完璧性はなくとも文学的
情熱で圧倒させる作品ばかりではある。またプルーストを高く評
価しえちるようだ、だが作品は入れてない。選択には問題はある
が世界文学を十作品で括るのがどだい無理である。それらを許す
なら、入門書として面白い。それ以上の価値はない。

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