フランソワーズ・サガン『絹の瞳』短編集(新潮文庫)滑稽なまでの人生の哀しみが浮き出ている

フランソワーズ・サガン(1935~2004)69歳没、日本流に
云うと昭和10年生まれ、戦中派ということだ。この短編集は
1975年にフランスで、1977年に朝吹登水子の訳で新潮文庫、
短編集だが、、あずは本のタイトルになった『絹の瞳』であ
るが。
表題作の『絹の瞳』、ジェローム・ベルチェはとにかく男
性的で通称「鉄の男」と云われている。航空機への搭乗、また
列車の時間に遅れて乗りそこなったことはない。13年前に結婚
した美人妻のモニカだけを愛し、快適安泰な生活を送っている。
ジェロームは20年来の親友で、たまの付き合い用の女性のベ
ティーを同伴した浮気性で軽薄な男友達のスタニスラスと狩
レにバイエルン地方に妻と出かけた。。航空機の一等席で移動
し、レンタカーで目的地に到着した。途中で秋ののどかな風景
を楽しみ、カーラジオから流れるアリアを聴いた、突如、ジェ
ロームは妻を抱いて、愛していると言いたい衝動に駆られた。
だがルームミラーを見ると、妻のモニカの手をしっかり握って
いるスタニスラスの手を見た。
ジェロームに感情の破綻が生じたのはその時からだった。
狩猟の獲物はスタニスラスに変わった。三度もやりそこなって、
そこに美しい瞳の、絹の瞳をした獲物が現れた。ジェロームは
その獲物が欲しかった。いつか一人になって沼をわたり、谷を
超え、岩を登って「モニカ」となづけたその獲物を追った。す
での10時間以上が経っていた、最後に「モニカ」は岩を滑り落
ちた。しかしジェロームはもはや殺意はなかった。彼は疲れ果
てていたのだ。
やり損じがないはずの「鉄の男」はやり損じて、小山で辿り
着くと地面に倒れた。妻は蒼白の顔でジェロームの手を握った。
かたに顔を埋め、生涯で初めて他人の前で夫への愛情を示した
のだった、・・・・・
些細な光景を見た途端にガラガラと崩れ落ちた。思わぬ展開後
に愛の結晶が浮き出てしまう。人生の哀しみが伝わってくるよう
だ。
サガンが格別、愛の理想化などやっていない。思わず露呈した
人生の愛を巡る様相である。滑稽なまでの哀しみだろうか。
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