吉行淳之介『闇の中の祝祭』1962,作者の不倫の実体験を描く暗澹たる作品

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 この「闇の中の祝祭」は作者、吉行淳之介の神経がピリピリ
震動するような、なんとも胸苦しくなるような作品である。ど
きりとさせられる、鋭利な表現にたびたび遭遇する。全体的に
非常に暗いといえる。それというのも進行中の不倫を描いたよ
うなものだから、

 「恋愛に対してシニックな姿勢を取り続けてきた男」と自ら
云う作家の沼田沼一郎、沼が名字と名前にあるというのは珍し
いいが、・・・・・・思いがけず恋に落ちる。相手はテレビ、
映画で有名な女優の都奈々子である。実体験だろうか?沼田に
はすでに妻がいる。いかにも、ありそうな三角関係だが、作者
はくどくど事情の説明や心理の描写は行わず、激しく張り詰め
た三人の神経、感情のふれあい、ぶつかり合いの瞬間だけに、
その描写を限定しているようだ。

 夫の浮気に気づいた妻は、奈々子の吹き込んだレコードを粉
々に壊しつぃまう。沼田は室内に散乱した破片をみやって「一
枚の黒いプラスチックレコードが、これだけの破片に変わるの
に費やされたエネルギー」を考え、「そのエネルギーが煙のよう
にもうもうと室内に立ち込めてでもいるかのよう」に感じる。
これは非常に印象的なシーンというか、イメージなっている。
 
 また沼田が奈々子の家に来ている時、不意に電話のベルが鳴
る、受話器を取ると切れてしまう。それが、繰り返される。息
をのんで見つめ合う二人。その電話機は「いきばって、身を震
わせ、喚き立てている黒い小さな獣のような」不気味さを漂わ
せる。こうした神経がピリピリの場面の描写は異常に鮮明だ。

 沼田は不安に怯え、苛立ちながら、さりとて奈々子をあきら
めきれず、また妻と別れる決意もできない。妻はノイローゼd
入院し、奈々子も沼田の優柔不断を責める。三人の焦燥、不安
は高まるのみ、・・・・何の解決への緒もないまま、この小説
は終わってしまう。

 こう書くといかにも実際の体験を綴ったようだがモデル問題
が話題になった作品である。三角関係の不安な心理を描いた、
というのも真実だし、自らのトラウマのはけ口で書いたのか、と
思わせるものはある。読後、なんとも、しっくりしない、いやー
な感じが残ってしまう。

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