『豹と兵隊』成岡正久、1967, 豹を日本兵との奇蹟の交流、奇蹟的で悲しくも美しい物語
およそ兵隊物は多いが、『豹と兵隊』は異色である。「~
と兵隊」は火野葦平でお馴染みだが、冗談めかしたような『
豹と兵隊』正真正銘の豹なのだ、およそ人間が手なづけ、さ
らに交流とは!
豹とふと出会い、深まりゆく両者の交流、止むに止まれぬ
悲しい別れ、それを真面目に細々と書き綴った稀有な作品で
ある。もちろん実話だからこそ、比類ない価値を持つ。
日中戦争当時、一人の曹長として華中陽新県城に駐屯して
いた著者、成岡さんだが、命によってある田舎の警備に当た
る。ところが、偶然、ふとしたことからこの町の近くの牛頭
山という岩山に四頭の凶暴な豹が住み着いてい、部落に出没、
家畜を遅い、ときには子供までさらわれ、住民たちの恐怖の
的になっていると知って、警備隊の面目にかけてこの猛獣に
天誅を下そうと決心した。
かくして、いずれ劣らぬ射撃の名手の部下三名を伴って、
豹退治に出かける。やっとその本拠を突き止めたら、敵はす
でに消えていて、子供の豹が二頭残されていた。子供のとき
はどんな動物もかわいいものだ。この二匹はメスとオス、著
者はオスをもらって帰還した。
著者が、豹穴に入って子供の豹をゲットした話は一気に広
がって、その子豹を見せてくれという、兵士が続々と現れた。
その毛並みの良さ、歩く愛らしさは格別で感嘆しないものいな
かったという。
だがまだ乳飲み子だ、膝の上で温めてやらないと寝付きが悪
い。また餌付けも苦労し、著者や兵士たちが寝食を忘れて子豹
の世話に明け暮れた。
愛情が通じたのか、子豹は兵士たちに慣れ、隊のマスコット
になった。無論、一番慣れているのは著者である。勤務が終わ
って買えると、よやよたと入り口まで走ってくる。
いくらか成長し、駐屯地で退院と遊ぶようになっても夕方に
はちゃんと著者の居室に帰ってくる。寝るときは成岡さんの首
を枕にする、そのうち「ハチ」と云う名前を与えられた。所属
が第八中隊だったからだ。
ハチは大きくなると教練や野外演習にもさんか。警備兵の後
をついて警戒線まで出てくる。野生の本能で卓越した創作能力
がある。炊事室に出没の猫や野良犬を懲らしめる。かと想うと
隊員との鬼ごっこに興じる。
成長し、1.7mほどの体長に、美しい毛並み、とにかく鋭い
感覚、獰猛で軍随一と言われた軍犬も問題にせず一撃で倒す。
猛牛を数分で倒す、だが軍馬は決して襲わない、軍務に忠実で
ある。すっかり隊員になったハチだった。
やがて別れが来る、舞台は移動すr.まさかハチは連れてい
けない、放置はまた危険なので上野の動物園に送られた。だが
戦争はヒドい仕打ちをもたらした。ハチも他の猛獣もろとも毒
殺されたのである。著者は蜂の子の悲惨な最期を哀しみ、剥製
を譲り受け、自宅に安置した。
「南国土佐を後にして」を生んだ高知の「くじら部隊」だ
ったからハチの剥製は現在、高知にあります。
悲しくも美しい物語である。
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