家城久子『エンドマークはつけないで』1984,一心同体の夫婦の愛情物語, 映画監督の家城巳代治の妻

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 進歩派映画監督、家城巳代治、一番印象に残る作品は田宮
虎彦原作の『異母兄弟』だ、独立プロの作品だろう。『悲し
き口笛』、『雲流るる果てに』は著名な映画だが、基本、政
治的な面から干された感じで、後半はテレビ作品が目立つ。
基本、田宮虎彦の原作の力だが『異母兄弟』、最初はテレビ
の深夜劇場で見た軍国主義の後味の悪さは忘れられない。

 この本には「一卵生夫婦」と云う言葉がよく出てくる。実際
、家城(いえき)監督のプライベートなど、全く知るよしもな
かったのだが、その進歩性は家庭の中のコンセプトに深く浸透
しているようで、子供の人格も認め、その進路も全面的に本人
に任せるということである。

 内容自体は東大卒で進歩的な社会派映画監督として活躍する
家城巳代治を支え、また脚本家としても、また一時は女優とし
ても夫に寄り添って生きた妻、家城久子さんの三十年に渡る愛
情物語である。

 夫の家城巳代治さんは奥さんより13歳年上、社会に疎く純真
な妻を温かく見守るというヒューマンな姿は一貫している。最
初の監督は戦時下、その後、終戦後の混乱期に結婚、その歩ん
だ道は激動の戦後史、といって何の過言でもない。

 ともかく進歩派監督として、再び戦争を起こさせない、戦争
を憎み、平和の探究を使命として映画を制作したが、占領下で
はうまくことが運ばない。反戦的な「雲流るる果に」1953年は
特攻隊出撃の若者を通じて、戦争の無意味さ、悲惨さ、というと
凡庸なようで不朽の真実を訴えた。「激しく戦うだけが強いとは
限らない、一歩引いても着実に前に進む姿勢だ」は信念だった。

 独立プロ時代の苦難、テレビの時代で映画は斜陽産業となって
経済的な苦境に立たされた。ただこの本のテーマは「夫婦の愛情
物語」である。日常会話も温かさがにじみ出ている。夫の巳代治
さんが60代前半で亡くなった、病床から「あしたはよくなるから」
と微笑みを残してこの世を去った。「エンドマークはつけない」と
いう言葉が本のタイトルにもなっている。

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