アルフレッド・ジャリ『超男性』1975. 澁澤龍彦訳、20世紀初頭の頽廃と悪徳のパリ趣味

最初の翻訳刊行は1975年の白水社から、澁澤龍彦の訳であ
る。それは「小説シュルレアリスム」というシリーズの第一
回の配本だったという。でも相いも変わらず分かりにくいの
は、その超現実主義である。この全くの荒唐無稽な概念は、
実は論理的だろう。いわゆる普通のリアリズム小説よりわか
りやすいかもしれない。さらに重要は、この作品には20世紀
初頭のパリの趣味性がみなぎっていて、じつに小粋なのであ
る。いわば楽しめる小説とでもいうべきか。
alfred Jarry (1873~1907)

1902年の秋、パリの西北のリュランスの城に、アンドレ・
マルクイユが客を招く、客の中には、娘のエレンを伴った、
アメリカの化学者ウィリアム・エルソンや、医学者のバティヴ
ウスもいた。
だがその当時の大問題であるドレフュス事件、についての議
論は避けなければならず、話題は「愛」にしぼろうとなった。
しかし主人のマルクイユがとんでもないことを言い出した。
「恋愛なんて取るに足らないことですよ。際限なく繰り返せ
ますから」と云ってラブレーによれば。あるインド人は一日に
70回も恋愛をやたとか、男たちはその説に反論し、、女たちは
顔を赤らめたり、で赤らめたふりをしながら、その説に反論し
た。父親から命じられ、途中から退席した処女のエレンが、宴
が終わって帰るとき、マルクイユを見つめて、「私はインド人
を信じます」とささやいた。
やがてマルクイユは「例のインド人が見つかったから、今夜
はおいでください」という手紙を先夜の客たちに出す、だが娘
同伴でないと外出しないエルソンには出さなかった。
一方でマルクイユは、当時、最も売れっ子の娼婦たちを七人
雇った。リュランス城の大広間で、12時から彼女らを相手にし
、インド人が打ち立てた一日に70回という記録を破ると、いう
のである。バティビウス博士がその実験の監視役をおおせつか
った。
だがインド人とは、それを迎えに行くといったマルクイユの
変装でしかなかった。で、彼の相手となったのは、二階の絵画
陳列室に娼婦らを閉じ込めたエレンであった。こうして「イン
ド人」と処女との壮大な実験が始まった。
しかし、このようなことをシュールレアリスムスと本当に
い云うのだろうか、である。このような内容にかかわりやすい
澁澤龍彦の趣味性に適合したのだろうが。サド侯爵での摘発へ
の反発もあったのか、内容はシュールの分かりにくさと、また
分かりやすさを同時に教えるものだろう。
この記事へのコメント