石川達三『青色革命』1953,健全な市民生活の幸福を的確に描く
1953年、昭和28年の新聞連載だという。タイトルは思わせ
ぶりだ。戦争末期に左翼教授で大学を追放された小泉さんは
実際は温和なる自由主義者でしかなく、50歳になって失業の
身となった。夫人の恒子は陽気で母性的な女性、長男の順平
は左翼理論を鵜呑みにし、親のすねをかじるのを良心的と想
いこみ、弟は実行型で実務的、洋間の間借りの福沢くんは、
教科書会社に勤務の青年で女性的な所作、恒子夫人のお気に
入りという。
小泉さんの姪で映画雑誌記者の美代子は福沢くんと恋愛中
だが、ともかく淡々たる女性。恒子夫人のはからいで小泉さ
んの友人で独身の鴨井助教授と見合いをするが、薄毛もあっ
て断られる。
小泉さんはふとしたことで小料理屋の女将に惹かれるが、そ
の彼女が彼の教え子で詐欺商売の犬飼武五郎の情婦と知って落
胆力する。また家庭を平安に保てて安堵する。順平と篤志の兄
弟は父親から小遣い5万円を前借りし、高利貸しの真似事を始
めるが失敗、弟は大学を中退するという。
紆余曲折で結局、福沢くんと美代子さんが結婚、それと前後して
小泉さんの大学復帰が決定する。お祝いのビールをうれしげにテ
ーブルに出す恒子夫人に篤志はいいう「おやじ、可哀想に」
その言葉が小泉さんに鋭く響いた。・・・・
こんな内容で「青色革命」ははて・若い世代の思うままの生き
方を「青色革命」となぞらえた?のかもしれない。石川達三は新
聞連載がうまい作家だという。「青色革命」も連載中から、想像
しにくいが大評判だったそうだ。
その後、かなり経って「青春の蹉跌」なる作品でかなり受けた
石川達三だが、私はなんとも、ありきたりで、この小説はキライ
で仕方なかった。だが評判は取った。でも、ぼんやり考えると、
「青色革命」の裏返しが「青春の蹉跌」に見ててならない。幸福
な青春、家庭と破綻(ずいぶんと類型的だが)、一人の作家の心理
の表裏かな、と思った。
思想的には石川達三は「人間の壁」から想像しがちな左翼でも
なく基本、リベラルだ。それが日中戦争に作家として従軍し、そ
のありのまま、を書いた「生きている兵隊」で弾圧を受けた。左
翼ではなく、要は自由主義が根底にある。それが適度な左と保守
の両面を持つ、というスタンスになる。でも特筆すべきは文章で、
何か漱石を現代化したような分かりやすさだ、ユーモアもある。
基本的に現代市民生活を的確に描き、問題も提示するが、解決の
道筋は示さない。それで作家としては十分ということなのだろう
が。作家としての石川達三は、懐が深い、わかりやすさが武器だ
ろうと思える。難解すぎず、平明すぎず、楽しませる術を心得て
いたと思う。
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