田宮虎彦『祈る人』1958,「父に愛されない」パターンで甘く悲しいが、甘すぎるだけ
田宮虎彦の小説の大きな特徴は「父親から愛されない」と
いう設定である。例えば「異母兄弟」はその理由が筋書きで
提示されているが、他の作品の「父親に愛されないパターン」
の理由は様々だ。なぜ田宮虎彦が父親嫌悪、逆に母親への親愛
の情をそれほど示すのか、私のようにどちらも大嫌い、という
タイプからすれば甘すぎるのでは、という思いもある。
現在は『祈る人』だが元来は1958年『祈るひと』として刊行
されている。物語は暁子の父親の死後から始まる。父の恭介は
学者として名を成した人だったが、暁子はその父親から全く何
の愛情も感じなかなった、子供時代も抱いてもらったこともなく、
成長してからは、ろくに話しかけてもくれなかった。母に対し
ても全然、優しくなかった。夫婦同士の親しい会話も暁子は思
う浮かることは出来ない。終日、暗い書斎に閉じこもっていた
父親、冷たい父親だった。父親が死んだときも母親は冷淡だっ
た。それはある種の疑惑を暁子に感じさせた。
暁子が女子大に通うようになってからは母親は次々と暁子に
見合いの話を持ちかけた。暁子は数人の男とはあったが、結婚
までとは思えなかった。いままた、役所づとめの蓮池という男
と見合いさせられ、その無愛想な態度に反発を覚えながらも、
誘われるままに一緒にお茶などを飲んでいた。
そのころ、母にはある光学器械会社の社長の庫木(くらき)
が寄り添っていた。母親が父の死後、めっっきり若作りになっ
ったのはそのせいだったようだ。だが父の生前から母は庫木と
歩いていることがあった。母と庫木の付き合いが深まるに連れ、
暁子は母から遠ざかって佐々木という大学教授の仕事を手伝い、
その家に泊めてもらうようになった。
たまたま教授が見せてくれた古い学術雑誌に載った父の随筆
、その中に父の本音が隠されていると思えた。教授などが、生
前の父は優しかったと一様に云うのを嬉々、秘密がおぼろげに
見えてきた。父の弟は先だった妻の後を追って自殺した。どう
も暁子は本当の父親は庫木では、と思うようになった。父も
母が結婚前っから庫木と付き合っているのを知って、暁子は自
分の子ではないと感じていたようだ。母を問い詰めると母は
「お母さんは寂しかったよ、愛されないで生きることはつらか
った」・・・・・母の行き方を納得し、出版社への就職で自活
しようと思い始めた、・・・・・で物語は終わるようだ。
例によって「父愛されぬパターン」が個別のフィクション化
されているのだが、・・・・・安芸この疑惑によって読者の興
味を引き付ける、という手法なのだろうか。
でも甘く悲しいが、・・・・・甘すぎないか、この世の修羅
場はこんな甘いものじゃない、父に愛されないくらい、さした
ることでもないと思う。「愛されない」どころか、虐待を受け
けている子供も多い、両親から、・・・・・・ともかく、田宮
虎彦はそれ以上のものを与えようとはしていない。
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