ジェラルド・ダレル『積みすぎた箱舟』時代的ギャップはあるが、痛快で稀有な動物文学かも

ジェラルド・ダレル、Gerard M.Durrellによる「積みすぎた
箱舟』The Overloaded Ark、最初の邦訳は1960年、浦松佐美太
郎、暮しの手帖社であるが、その後、「福音館文庫 ノンフィ
クション」で羽田節子訳で刊行された。正直、アフリカの原住
民を見下す植民地的精神をなお内蔵してしるようで、その意味
では時代的なギャップは免れないが、それをさておけば、いた
って痛快な話ではある。
アフリカの西海岸、当時のイギリス領のカメルーンの密林へ
、友人と二人で動物採集に出かけた若い学者の記録である。二
人はトラックで運ばれたマムフエという部落で離れ離れになっ
た。著者は哺乳類、爬虫類が専門、友人は鳥類が専門であり、
互いに採集の有利な場所を目指したためである。
著者は出発に先立って歯を尖らせている「食人族」の案内人
にまず肝を冷やしたが、目的地のエシヨピに到着すると、そこ
の原住民は非常に好意的で、著者の良き協力者となって動いて
くれる。原住民は報酬目当てに次々と動物を捕らえてくる。あ
力たりの動物が多いが、珍しい得難い種もある。アンワンチボ
という長年探し求めていた珍獣もゲットした。最も進化の遅れ
た、というと侮蔑的だが、体長30cm、何か「ぬいぐるみの熊」
そっくりという動物で著者は人類で初めて持ち帰ることができ
た。
その他、和ワニ、ゴリラ、カモシカなど多くの動物を捕獲し、
草原に燻し網をかけて大ネズミを捕獲する話、岩穴に入り込ん
だ山アラシとの格闘、また断崖上ででオオトカゲの捕物、など、
実話ならではの迫真とユーモアで描かれている。ともかく半年
間も在留し、採集は大成功に終わった。友がいるベース地まで
戻ると、友人もおびただしい鳥類を捕獲していた。
帰りの舟はアンワンチボを第一の賓客とし、多数の鳥獣で
甲板が溢れかえったという。文字通りの「積みすぎた箱舟」と
なって、あまりに人間のエゴの発露と思えないこともないが、
それっはそれとして、面白い。また原住民の生活の様子、風俗
も細かく描かれ、密林の描写がまた気が利いている。全く稀有
の動物記録文学であり、単なる捕獲者ではなく、自然の詩人め
いた感性にも恵まれている。だから読後感は爽快というべきか。
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