『ロシア文学と現代イギリス小説」デイヴィー著、研究社、あまりに深いロシア文学とイギリス人作家の相互の影響
英語学習の研究社から1975年に出た翻訳、ロシア文学と
イギリス小説の関連を取り扱う論文というのか、論考が18篇
収められている。批評の選集である。メレシコフスキーの「
ドストエフスキーとトルストイ」とか、トーマス・マンの「
チェーホフ」もあるから、イギリス文学と無関係な論考もあ
るが、ロシア文学に触れない論考はない。あまり日本人一般
には知られていないが、20世紀初頭に大きな影響を与えたと
いうメレコフスキー論文、トーマス・マンの批評分は西欧文
学者にチェーホフ論としては最も上質とされたから収録され
たようだ。だから「イギリス小説」は必須ではなく、ロシア
文学と西欧の関係、ただし西欧ではイギリス小説を重視しま
す、というていどの意味のタイトルだろう、
日本の近代文学に与えた外国文学の影響ではロシア文学は
圧倒的で、英文学など、というと何だか、ロシア文学の作品
の質と比べると足下にも及ばない、レベルの低いものという
意識が日本人にはある。英文学のシェークスピアなど近代文
学ではありえず、それ以外はロシア文学と比べるものはない、
というのが日本人の意識に近い。だからロシア文学とイギリ
スの現代小説との関わりなど、日本人は想像だにできない、
だが英語の研究社ならばこそだろう。これはロシアの作家が
イギリスの小説をどう読み、どう影響されたか、という点に
思い及ばない、・・・・・しかしそれはどこまでも世界の中
の田舎者、、日本人の狭い見識でしかないわけである。
例えばであるが、コロレンコの「ディケンズとの最初の
出会い」は彼が少年時代、兄の本を読んでいかに夢中になっ
たかを述べているエッセイだが、さらに匿名の「ロシア文学
におけるディケンズ、ー徳育家」はコロレンコを熱中させた
ディケンズの魅力を伝えてもいる。「ロシア語は調子が柔ら
かで、親愛を表す語が豊富である。感情的な表現の幅が広く
、情熱的な色彩を持っているため、ディケンズの特質をさら
に増幅させる」ディケンズの小説をロシア語に翻訳したら
「根底から異なった現実を背景とすると、ピクウィック氏の
滑稽な身振りと、ミコーバー氏の離れ業は、その大胆さで超
人的となる」
だからドストエフスキーの人物描写の秘密が明かされるの
だという、日本人はディケンズは子供じみた幼稚な作家くら
いにしか思わないが、実はドストエフスキーはディケンズの
弟子であった。
編者は回想を重視し、文学的影響という曖昧なものは弱いと
も考えたのかどうか。ロシア文学がイギリス作家に一方的に
影響を与えたとばかり日本人は思うが、実は逆こそが大きかっ
たのだ。無論、そうとばかりも云えないので、多様な内容を含
む。
若い頃から高等遊民だったあるイギリス人作家がツルゲーネ
フを尊敬することで才能を失っていく過程の話は興味深い。
日本人のロシア文学評論ばかり読んでいると世界は見えてこ
ないということを思い知る。
編者
Donald Alfred Davie, FBA (17 July 1922 – 18 September 1995)[1] was an English Movement poet, and literary critic. His poems in general are philosophical and abstract, but often evoke various landscapes.

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