ルイ・アラゴン『オーレリアン』生島僚一訳、二つの大戦の間の人間模様を描いて見事


 ルイ・アラゴン、Louis Aragon,1897~1982、はパリ生まれ、
早くから試作、詩の前衛運動に参加、第一次大戦には軍医補
として従軍、第二次大戦でも動員され、対独レジスタンスに
参加、活動。共産主義者であり、戦後はCe Soir紙の主筆であ
り、さらにLes Commnisrtの執筆を続けた。

 この作品は1946年の発表で、前作「パールの鐘」、「お屋
敷町」、「二階馬車の乗客たち」に続く第四作目で連作「現実
世界」四部作の最終巻である。

 第一次大戦に出征し、その後、いわゆるアプレ・ゲールの心
理状態となった30歳の主人公、オーレリアン・ルールチョワは
戦友の家でその従妹のベレニスを見て、はじめはつまらない女
だ、と思っていたが、会っていくうちに、徐々に彼女を好きに
なっていった。

 ベレニスは南仏の田舎町から出てきてパリの生活をエンジョイ
している。彼女は潔癖であり、同時に「絶対の嗜好」を持ってい
た。それは全てか無かに近い徹底したもので、「汚れが多少でも
あるとか、欠けて傷がついている、折り目がついている物」はど
んなに美しいものでも、もはや見ることが出来ない、捨てる以外
にないという性格だった。オーレリアンの愛に対して、夫あるベ
レニスは打ち解ける素振りを見せて、結局、身をかわしてしまう。

 オーレリアンは拠り所のない生活の中から、ベレニスに愛を求
めるが、反応は乏しく、いらいらし、ある夜、とうとう酒場で泥
酔し、そこの女のシモーヌと関係してしまう。偶然、ベレニスは
その夜、夫と口論し、ついにオーレリアンの部屋に来たら、遅く
帰ってきたオーレリアンの話を立ち聞きし、せっかく開きかけた
心を閉ざしてしまう。

 ベレニスとの愛が絶望的となったあとのオーレリアンは、無軌
道な精神となって乱脈な生活を送るがやがて平凡な市民となって
生きようとする。

 最後の一章はエピリーグ的というのか、18年後である。第二次
大戦に再度出征したオーレリアンは大尉となっていた。戦況は不
利一色、敗戦確実だ、ここではからずもオレーリアンはベレニス
とその夫に再会する。オーレリアンはベレニスへの執着があった、
だが二人には距離がある。ベレニスは敗戦に落胆する周囲を批判
し、強い気持ちで未来志向となるように考えていた。彼女にも
オーレリアンへの気持ちはあった。

 自動車で街を脱出の際、オーレリアンはドイツ軍の機銃掃射で
負傷する。だが誰も気づかぬうち、ベレニスも銃弾を受けてオー
レリアンの腕の中で死んでいた。

 この作品は要は作者の経験が生かされている。かって超現実主義、
というのか」シュールレアリスムスの詩人だった作者、その精神が
作中に当時の空気の際限という形で生きている、政治的主張はあま
り述べられていない。だが大戦間の人間描写が活きていて結果は、
佳作と云うとおかしいが、見事な作品となった、との評価である。


ルイ・アラゴン(Louis Aragon、1897年10月3日 - 1982年12月24日)
は、フランスの小説家、詩人、文芸評論家。

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