辰野隆『フランス革命夜話」日本きってのフランス通の語るフランス革命

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 この本は1958年に朝日新聞社からは冠されたのが最初であ
り、一旦、絶版となって中公文庫で復刊、それも絶版、現在
はKindleで復刊している。古書なら入手できるが。

なお辰野隆は「たつの・たかし」ではなく「たつの・ゆた
か」である。これは、奇妙な読み方だがそう読むのである。

 それにしても「フランス革命」についての本は数しれない。
日本人が書いた『フランス革命夜話』も何種類もある。だが、
近代日本きってのフランス通の辰野隆の描くフランス革命で
ある。ただ辰野隆さんはフランス革命の専門家、というわけ
はない。日本屈指のフランス文学者、随筆家が描くフランス
革命、のエッセイであるから、情趣がある。

 「・・・革命ものを、ぼつぼつ読み始めたのは太平洋戦争
の中期からです。戦争の前途に全く望みも失って、近い将来、
必ず国内でも革命が起こる、と表ね。いずれは免れない変革
なら、すでに散々流した血の上に。さらに無駄な流血を重ね
つのは避けたい。ま、そういう気持ちから、いろんなフラン
ス革命史を読んでみたんです」と辰野さんは最初に書かれて
いる。その後、日本は国内で革命は起こらなかった。辰野さ
んの危機意識にかられた読書から、この本が生まれた。

 第一部は七つの話と、一つの結語からなる。フランス大革
命にまつわる、いろんな物語をよく消化され、面白く語られ
ている。もちろん専門的な歴史研究ではないし、著者の新た
な知見が加えられてはいない。しかし日本切手のフランス通
はあらゆる知識を咀嚼吸収し、日本人にわかりやすく語る術
を心得ている。基本は文学者だけに、辰野さん独特の味わい
深い文章、独自の人生観、歴史観も織り込み、ありふれた
フランシュ革命本とはなっていないと思える。

 第一話の「革命夜話」の中で辰野さんは、革命の登場人物
の中でミラボーを最も高く評価し、敬愛している。シャンソ
ンの「ミラボー橋」でも知られているが、ミラボーは18世紀
のヴォルテール、ルソー、モンテスキュー、その他の百科全
書派の学説、思想を身につけ、「時代に即した政治の公道を
明確に見極め、フランス革命の見通しを初めからつけて」い
たという。

 歴史家のテーヌは大革命もその直前の政治も直後の政治も
込めてフィヤスコ(大失敗)と断定しているが、辰野さんもテー
ヌの説を認めて、断頭台に消えた国王の運命に落涙し、革命家
の変節を憤り、「革命家が心細いよりも、およそ人間自体が情
けない代物ではないのか」と歎く。

 辰野さんはロベスピエールを「いやな奴」と忌み嫌いながら
、「理想主義的役者」の運命に、また強い興味を示す。「革命
夜話」はさらに、マーラーを刺殺したシャルロット・コルデー
について語り、革命最中のフランス国民の感情を巧みに探り、
ルイ16性の首をギロチンではねた断頭台首幹のサンソンが、実
はカトリック信者で。王党派であったことを述べ、ルイ16世の
最期の様子を物語っている。血なまぐさいフランス革命の歴史
が、辰野さん流儀に、一つの壮大なドラマとして再現されてい
るのは間違いない。

 第一部は砕けた物語的な内容であり、それを補う意味で第二部
でフランスの原著の翻訳やフランスの教科書、中学歴史の内容を
翻訳し、乗せているのはサプリの意味合いがあるようだ。要は
フランス史専門家のフランス革命の書物は大いに趣が異なってい
るわkである。

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