サマーセット・モーム『コスモポリタンズ』ちくま文庫、龍口直太郎訳、ミニ短編、O・ヘンリー的ショート

46531.jpg
 現在も「ちくま文庫」から出ている龍口直太郎訳のモーム
のショート&ショート的な、まあ、O・ヘンリー的なミニ短編
集まりであり、最初は新潮社から1955年、昭和30年にでてい
るから古いことは古い。・・・・・でモームの短編は数多いが
邦訳され、出版されているものは一部であった。この短編集は
本邦初訳というわけだが、ちょっと変わった短編集で原著の序
文にあるとおりで、三十ほどの短編、すべてアメリカの「コズ
モポリタン」という雑誌に見開き二頁に収まるように書かれた
ものだ。挿絵入りだったからさらに短い。これが5年ほど、連
載されたという。

 で訳してみると、日本の原稿用紙、二十数枚前後だという。
いわばショートショートみたいで、だがサイエンスではないか
らO・ヘンリー的なのか。これで、しっかり短編の味をにじま
せるというから、モームは職人作家だったのだろうか。

 「面白さ」こそが小説だというモームの信念は短編にこそ
現れる。長編にでも仕立てられそうなテーマを惜しげもなく
短編にし手切り上げている。

 で30篇ほどの作品、ショートの作品、ピリッと小味を効かせ
ている。で読んで感心するかどうかは読者によるにせよ、ただ
作品自体の優劣はあまりない気がする。表向き淡々としていて、
波風が立たない生涯でも、逆に劇的で派手な事件より遥かに深
刻な人生の味わいを、空しさを感じたいなら、何もしないで
一生を云えた『弁護士メイヒュー」がいい、

 また人間というものが、、いかにアテもない人生の夢に翻弄
されるかを知りたいなら、失恋し、、50年家出をし、船乗りを
やっていた男が何の意味もなくぶらっと実家に戻って、古い思
い出を語りながら突然死んでしまうという『生家』、モームの
意地悪い女キライを味わいたいなら『ランチ」、『ルイーズ』
など女のいやらしさを描いて遺憾がない作品だろう。とぼけた
小品なら『家探し』、『店じまい』

 まあ、どれも厳粛さも深刻さもないといえばないが、人生に
おける説教を嫌うモームだから仕方がないことだ。モームは
英文学のドストエフスキーでなく基本はO・ヘンリー的な資質
の作家だった、と思わせる。

この記事へのコメント