『喝采の谷』平田敬、1977,綱渡りの特技で生き延びたユダヤ人の苦難の人生を描く「創作」
『喝采の谷』は当時、TBS勤務の平田敬さんの執筆である。
平田敬さんはそれ以前、直木賞候補が二回、芥川賞候補も一
回あるほどの筆力である。多くの優れた本を出されている。
主人公はアーノルド・シロニー、本名エイサ・シロニー、
イタリア生まれのユダヤ人、サーカスの団員の子として生ま
れ、サーカスではひたすら綱渡り、結婚し、二人の子供にも
恵まれたが、第二次大戦、ナチスのユダヤ人狩りで捕囚の身
に、妻子と別の収容所に送られた。二人の子は収容所で死ん
だ、奇跡的にソロに~は収容所で生き延びた、その理由がナ
チスへ綱渡りを見せることで、であったという。そのため戦
後はナチスの協力者として批判され、かろうじて名誉を維持
し、アメリカに渡った。人生が黄昏れていく、そこで自分だ
けのために谷底まで300mに峡谷に長さ500mのワイヤーを張
って満足のいく芸を達成し、人生をしめくくろうとする。そ
もそも、その年でなぜ大峡谷での綱渡りに挑戦しようとした
のか、である。報酬も栄名声も無縁の所業だ。
といってこれはあくまで小説である、モデルはいる。とい
う。1975年4月、パリの場末のクラブで・・・・
「舞台ではイスを何脚も積み上げ、その上で逆立ちするショ
ーをやっていましたが、同じテーブルのドイツ人が『あの曲芸
が出来たお蔭でナチスに殺されずにいたユダヤ人だそうです』
」この一言で創作の発想が生まれたという。だから全くモデル
がないわけではないが、作品とは縁遠く、あくまで非平田さん
の想像力の産物である。
だから「人生の終焉で生き長らえさせるか、落下させて死な
せるべきか迷いました」なのである。さすがの実力派作家なの
である。逆に実話、と誤解させる可能性もないとは言えない。
「私もサラリーマンでリタイアが近い、定年前に納得行く仕
事をやてtみたい、・・・・が凝縮して」ということである。
小説としては無論、ひじょうに面白くもあるが、上述の危険
?があるということである。
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