大江健三郎『世界の若者たち』1962,ある意味、大江健三郎の原点かもしれない
大江健三郎は学生作家としてデビュー、その評価はなかなか
厳しいものはあった。「三流国の文学だ」とも揶揄されたこと
もあった。だが、そこから大江健三郎さんは邁進した、その原
点は、全てではないが、「若者」である。この若者視点は大江
文学に一貫していると思う。・・・・・・今年、88歳で大江さ
んは亡くなられた、ノーベル文学賞という俗なことは文学の本
質的価値と関係はない。ただ何を描こうとしたか、である。そ
のある意味、再スタートが1962年の『世界の若者たち』だと思
う。
この本の内容は、その大半を占めるのが「日本の若者たち」
と題する各界の24人との対談、他に「一日本青年の中国旅行」、
「若いブルガリア」、「ソヴィエトの若者たち」、「パリの
大学生」海外紀行随想、
で「日本の若者たち」の対談相手は、・・・今や懐かしい
島津貴子、続いて大鵬、全学連書記長、北小路敏、
島津貴子:「日本に革命が起きたら、という小説を書いた人
がいましたが、そんな場合、島津さんは天皇家と国民とどちら
の側につきますか?」とまあ、のっけから無神経と思われそう
な質問が飛び出す。天皇制についてもあれこれ聞いているが、
実際、明治以降の皇族こそが実は近代天皇制の被害者である
ことに、ちょっとお気づきでないのかな、とも思える。「
いやぁ、まいっちゃったな、普通の対談と思っていたら、あ
んな難しい質問が出るなんて、本当に逃げ出したかったよ」
実はこれは大鵬が対談のあと、もらした言葉である。大江さん
が「5年前にはごく普通の少年だったのに、あっという間の
出世で、これは本当にオレなのかな、なんて思いませんでし
たか?」大鵬「別にないですよ、早いと云って下から順通り
に上がっただけですから」と、でもこれはむしろ、大鵬が大江
さんに向かって逆に質問をしている気配もある。
全体として大江さんの質問が妙に浮ついている、ような印象
も受けないではない。対談相手は皆、根を下ろした活動者、生
活者である。そこにいくとヨネヤマ・ママコ(もう誰も知らない
?)振付師、パントマイマー、との対談はサルトル談義、どちら
も舌足らずのようで、仲間内だけで通じるような一種の方言め
いていて、この対談だけは妙にしっくりいっている。
相手は多彩で、実際、それぞれの対談で際立った発言はある。
全学連の北小路敏「ギリギリの所に落ち込んで、その中に宇宙
が開いているような、人間の葛藤を描いてもらいたい。中国に
行ってきたなんて、それを甘く肯定されたら困るよ」と注文を
つけている。歌舞伎の下積み青年!大江さんが前進座に重点を
置いての質問に閉口したのか「大衆に気に入られるような芝居
より、古典の良さを民衆にわかってもらうように努力するのも
価値はあるんです」、苦渋の下層出身のアイ・ジョージの発言
は尋常でない体験から生まれた肉声で力強い、やはり学生作家
の気風を残す大江さんは正直甘いと感じる。
世界の若者、というタイトルだが世界紀行の海外の若者との
やり年は全体からは少ない、仕方がないが。これもしかし、
有益である。
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