再論!『幽霊男』横溝正史、再論!「連続殺人」の謎解きだけが精緻を極め、論理的、周辺描写はすべて荒唐無稽

  u70331603.1.jpg
 横溝正史さん、次々に作品を書かねばならないプレッシャー
は大変だったと思う。そこでお決まりのパターン、安易な構成
が繰り返されるのも仕方がなかった、と思う。だが本格推理小
説としての名作、傑作はある。『幽霊男」はそれに該当しない。

 あらすじ、・・・だが、この頃、流行のヌード写真モデルを
紹介仲介の「共栄美術倶楽部」なる怪しげな業者がいる。作品
発表は1954年である。その店に専属モデル目当てに毎日のよう
に遊びに来る男三人がいる。加納という外科医、菊池というヌー
ど写真で生計を立てている男、それから新聞記者となったが、
仕事を干されている建部という青年である。

 ある日、この共栄倶楽部に「佐川幽霊男(ゆれお)」という名前
の、まるで幽霊のような姿の奇怪な画家が、モデルを求めてやっ
た。約束の時間に、郊外の彼のアトリエに行ったモデルは、そこ
からトランクに詰められ、都内のホテルの一室に送られ、そのバ
スタブ内で殺されていた。

 これが新聞報道され、センセーションを巻き起こしている最中
に、「幽霊男」はさらに共栄倶楽部のモデルの殺害を宣言する。
その宣言通りに、モデルが一人づつ、殺される。殺される場所は
温泉場のホテルの池の中とか、ストリップの舞台上であったり、
なんとも猟奇的な場所である。

 この連続殺人の途中からお決まりとなっていた金田一耕助が登
場する、だが連続殺人を止めることは出来ない。挙げ句に共栄の
主なモデルは全員殺害される。で犯人逮捕は偶然からだった。

 金田一耕助が論理を積み重ね、犯人を突き止めた、のではなく
、偶然に捕まえてから犯罪の経過、中身を説明という手法だ。
説明役は金田一耕助でこのパターンはよくある。批評家、金田一
である。

 連続殺人自体は。最初に犯人の一人が捕まるが、偶然だが、実
は真犯人ではなく、真犯人がこの疑似犯人を利用し、その仕掛け
での連続殺人だ。実は横溝正史は「連続殺人」にことのほか執着
があり、安吾の「不連続殺人事件」の大ヒットに衝撃をうけ、
「連続殺人、意図を隠蔽のため殺人を繰り返す」という「連続殺
人」を「オレならもっとうまく書ける」として「八ツ墓村」を書
いた。「真の執筆動機はここにある」ともらしている。で、ここ
で連続殺人だ、だからこの作品の連続殺人も疑似犯人と真犯人と
の絡みが実にうまくデキている。精緻だ。

 だが周辺事情というのか、全体としてもし「文学作品」として
見たら、やたら無駄な会話、冗漫な描写で散漫を極める。この連
続殺人の組み立ては精緻でも、sレを取り巻くさまざまな出来事、
周辺事情が論理もなく常識も欠けていれ現実遊離もはなはだしい。
神田から大塚の護国寺まで自転車で自動車を追跡というのも変だ
し、1952年型フォードの後部トランクが自動で開け閉めも、あり
得ないと思う。捨てていった自転車が見つからない、のも作者が
忘れただけではないの?と思える。浩吉という少年が都合のいい
ときに出没、当時流行の猿飛佐助だったのか。

 実は「幽霊男」は二度目のコメントだが、あまり変わり映え
もないが、これは苦渋だ。

この記事へのコメント