佐伯梅友『古今和歌集』岩波文庫、絶妙の「機能的」解説
佐伯梅友校注、という岩波文庫「古今和歌集」と聞くと、
随分とブッたというか、アカデミズムの衒学さを想起しがち
だが、それも一面当たっている。が、読み解く努力なくして
は楽しみも得られない。実際はこの種の本では読みやすい。
日本文学の歴史的な中枢にあるのは天皇や上皇の命令で編
まれた勅撰和歌集である。天皇家と藤原家の文化を代表する
これらの詞華集のお蔭でと云うべきか、『源氏物語』その他
の作り物語、『平家物語』その他の多くの戦記物も生まれた、
のかもしれないが反対説も多い。
明治以降は正岡子規や「アララギ派」の影響で勅撰和歌集
は非常に軽視された。だが正岡子規やアララギ派の力も戦後
は衰微した。
『古今和歌集』は勅撰和歌集、最初である。啄木の日記
を見れば「古今和歌集」を読んだが悪作が多すぎる、とか
万葉集の評価に比べ、文学者の多くの評価が散々な傾向は
確かにある。だが、日本文学の基本的方向を定めた最初の
詞華集であり、万葉集には劣るにせよ、現代に通じる恋愛
のタイプも四季折々の季節感、その推移の情緒も古今和歌
集に基本揃っていると思われる。
佐伯梅友は以前に岩波の日本古典文学大系のために執筆
したテキストをベースにしての一般読者のための非常に便利
な古今和歌集解説の文庫本をものにした、というべき。佐伯
梅友は専攻は国語学であり、その読解力はさすがで、この本
の校注もまず信頼にたるし、また註の付け方が少ない頁数を
考慮して絶妙である。要は極めて機能的ということだ。
だが上代国語などの専門家であり、文学自体の専門家では
ないから、解説が文学上の重要な視点を、なおざりにしてい
る点は欠点だろう。配列の趣向、作者名の記し方、読み人知
らずの意味、これらは本来の古典文学者の見解も添えておく
べきだったかな、とも感じる。
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