丸谷才一『年の残り』1968,歳末小説ではなく老年期回想小説、あまりに滑稽な設定で笑える

確かに1968年、昭和43年の後期だったと思うが大庭みな子
さんの『三匹の蟹』とともに芥川賞を受賞した作品とは中学
生頃から知っている。丸谷さんは丸顔である。満面の笑み、で
大庭みな子さんと悦びを分かち合う画像はよく覚えている。だ
がその作品の内容を知ったのはごく最近だ、最初、中学生の時
だがそのタイトルを聞いたとき、「歳末の気忙しさ」を描いた
小説かなぁ、とばかり思っていたが、違った。高齢期小説であ
る、・・・老年期といいたいが、たかが69歳くらいで老年とい
うのも抵抗を感じる。今と多少、年齢の感覚が異なる、古いと
云えば古い、子供時代、60歳前の教員も人によりけりだが、え
らく老けていた。まして70歳近くだと、もう完膚なき老人!だ
った。だが今、私が?冗談じゃないという感じ。
さて、69歳になった病院長。これがどうも主人公で、中学
の、旧制中学だが、その同級生脱が銀座の有名な洋菓子店の主人
、社長、同じく中学同級生で私立女子大の前学長だったという英
文学者らとの旧友との交友を回想する構成だ。
まあ、69歳という年齢を非常に年寄り扱いしている感じで、ま
あ当時がそうだったのだろうが、だが今でも免許更新でやたら、
もう返納しろとか、とにかく年寄り扱いする日本だ。
さて、回想のきっかけは、洋菓子店の主人が猟犬を射殺し、
さらに自分も猟銃で自殺を遂げた、という突発的事件である。
その葬式に参列し、病院長は喫茶で前某女子大学学長と自殺し
た洋菓子屋の主人を語り合う、ということで展開する。
その展開で69歳まで生きた三人の中学同級生が、その生涯で
遭遇した様々な災難、危機を病院長の立場で回想している、と
いうのだ。昭和18年に洋菓子屋主人の妻が肋膜炎を患ったとか、
昭和4年、1929年の夏、イギリスから帰国間もない英文学者らと
ビールを飲み交わして話し合ったとか、いろいろ思い出していく。
S&G、サイモンとガーファンクルに「OLD FRIENFD」という
歌がある、70歳になる心情を歌ったものだ。・・・・でもそんな
年寄りなのかな、90過ぎたわけでもないのと思ってしまうが、大
正14年、1925年生まれの作者、丸谷才一はこのとき、43歳だ。
なぜこんな小説を書こうと思ったのだろうか、全z年、高齢になっ
ての回想の真実味も哀感もないように見受けられる。拙劣なフケ
づくりである。
だが面白いのは洋菓子店主人の自殺の理由で、二人の妾、フル
い言い方だが、妾を囲っていた洋菓子店主人は画才が若い頃から
あって、セックスの後、女の肢体をスケッチするのが生きがいで
あったが、男性機能の低下でそれもなし得ず、画才への失望と重
なって猟犬を殺して自分も自殺、・・・・・と病院長は推定だが、
小説とは云え、アホらしいの一語に尽きるお話であり、これは本
当にひどい。
前の学長は主人の自殺をヒロイックと賞賛、だが前学長もその
昔、妻に自殺され、その負い目から長く解放されないという。病
院長は美貌、頭脳優れた二人の女性から頭脳本位で選択したのに、
馬鹿な子供が出来てその子が病死するとか、・・・・・それぞれ
癒しがたい傷を背負っていきている?
だが作者のこの設定があまりに稚拙、拙劣で正直笑ってしまう。
あゝ、「年の残り」とはどこまでも歳末の話でなければならな
い。この老年回想小説はあまりに不自然と拙劣な設定ばかりが目
立つ、これで受賞は疑問である。もう昔のことだが。
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