生島治郎『追いつめる』1967,神戸舞台のハードボイルド、見事だが空々しい

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 非常に知名度が高い作品だと思う。映画化もされている。
1967年、上期の直木賞受賞。タイトルが凡庸そうで特徴ある
が、内容もほぼそのイメージに沿っている。いわゆるハード
ボイルド小説、冷酷非情な作品である。推理小説的な性格は
ない。ひたすらハードんボイルドである。ヘマをやらかして
警察を退職した一匹狼が全国組織を誇る無敵を誇ったかのよ
うな敵、暴力組織を徹底して、追い詰める。で一網打尽にす
るスリルである。

 で舞台は神戸、当時と来たら山口組三代目の時代でその
勢力は圧倒的だった。暴対法もない。神戸で学生生活を送っ
た私は神戸の街の雰囲気をよく知っているつもりだ。ヤクザ
のための町のような気がした。この作品は港湾を足場に、全
国的な組織の強大な暴力団が街中に巣くって、港湾労働者か
らチンピラ、は言うに及ばず海運会社、など大企業まで支配
化においている、・・・・というのだが、とにかく、やりた
いほうだいの暴力、脅しで利権を貪る、ということである。
その魔の手は警察内部にまで及び、スパイとなっている警官
もいる。摘発しようにも情報は漏洩し、手も足も出せない
情けない状況、・・・・・

 兵庫県警本部長が密かに狙っていた摘発の機会、が到来し
た。暴力団の一味が、ある海運会社に恐喝を働いた、会社側
は暴力団の仕返しを怖れ、捜査に非協力、だがその会社のある
重役の女婿にあたる一人の刑事が家庭も職も捨て、まあ、ヘマ
をやっての退職だが、この暴力組織、モデルは山口組と対決す
るという無理無体な物語である。

 ハードボイルドらしく主人公の元刑事は、ニヒルで憂愁に満
ちているかのようだ。次々に起こる血なまぐさい事件をすり抜
け、一網打尽に導く、と云うが早川の編集者だった経験も手伝
い、何か処女作?にしては手慣れている。それはそれでいいが、
ハードボイルドらしい空々しさも拭えない。現実、元刑事一人
で現実、対抗できる可能性ないから、いかにも小説だが、やは
りハードボイルドは、根付きにくい風土の日本を感じる。

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