獅子文六『箱根山』(ちくま文庫)伝統的に「喧嘩の山」箱根山の物語、

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 箱根の山の争いと云えば堤康次郎の西武と五島慶太率いる
東急の箱根戦争がよく知られている。だが堤家は株式保有の
形態を違法とされ、堤義明氏が逮捕、西武系の全株式を売却、
堤家と西武の関係は完全に消えた。西武自体も事業は不審な
部門が多く、解体、「弟」の堤清二のセゾンも解体され、あ
の池袋の西武デパートもファンドに売却という。東急は、つ
まるところ強盗慶太の辣腕、それを引き継いだ五島昇、され
どその息子はおよそ力量才覚に欠けていて東急の総帥にはな
り得ず、東急と五島家の関わりもなくなった。それ以前に、
西武のような一族により企業集団支配はなされていなかった
、から堤のように法に問われることもなかったのだが。

 さて、この作品、結果として、獅子文六最晩年の作品となっ
た。箱根山自体が主人公である。この発想というか、着想は、
実際、見事であると思う。誰も箱根山を主人公の小説は斬新と
いえる。

 で獅子文六さんはまず「西郊」と「関急」という二つの私鉄
企業による多年に渡る争奪戦の場としての箱根山を捉えた、む
ろん、西武と東急である。堤康次郎対五島慶太だ。そこに割り
込み、漁夫の利を得ようとする新興のう氏田観光社長、北条一
角という怪物を割り込ませた。藤田観光である。

 だが箱根山の喧嘩の歴史は古いという。徳川幕府が箱根に関
所を設けた時、早くも箱根町と元箱根が睨み合いを始めた。そ
の結果、足刈のワシの湯で最初は兄弟で玉屋、若松屋という二
軒の宿屋を初めたが、五代目玉屋善兵衛が元箱根から嫁を迎え、
同じ頃、若松屋は箱根町から養子をもらった、ことでこの両家
は犬猿の仲になった。

 獅子文六さんは箱根山の喧嘩を、この両家の争いにほぼ絞っ
て物語を展開、玉屋の当主、お里ばあさんは当年89歳だが、壮
年のものを凌ぐ元気さであり、忠実な小金井番頭とともに家業
に励んでいる。

 小金井は目下、新潟の温泉の試掘に取り掛かっているが、な
かなか結果は出ない。一年以上過ぎても成功の目処がない、そ
れが彼の最大の悩みとなっていた。しかし玉屋には乙夫という1
17歳になる番頭見習いがいて、頭がいい、気立てもよく、玉屋の
屋台骨になりそうだ。

 だが乙夫は、戦時中に、若松屋に泊まっていたドイツ海軍の
フリッツ兵曹が、玉屋の女中にうませたハーフなのだ。他方で
。。若松屋には当主の幸右衛門が50すぎのインテリで大学で考
古学を専攻していたというくらいだ。箱根山を開拓した先祖の
研究に没頭、旅館の経営は妻に任せている。彼は16歳になる
明日子という美貌で勝ち気な娘がいて、彼女はいつの間にや
玉屋の乙夫と懇ろになって、、密かに英語を習っている。

 そのうち玉屋で火事、明日子が乙夫に頼まれてお里ばあさんを
自宅に避難させた。長年の両家の確執も徐々に雪解けしていく。
玉屋の温泉発掘が成功、幸右衛門は学問的な大発見をし、両者は
あたらしくまた競争を始める、明日子は乙夫と結ばれる、両家に
春がくることを暗示して終わる、・・・・・のだが。

 箱根山で古来、繰り返されていた喧嘩が、若者の聡明さでやがて
終止符を打つ、と明るい展望を予測させる。いたって暖かく気持ち
いい作品ではないだろうか、その後の西武の堤と東急の強盗慶太と
の争いで、またまた、なのであるが。だが全ては歴史の流れに消え
ていくのだ。

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