野間宏『文学の探求』1955,自らの文学的生い立ちを述べる、アンドレ・ジッドへの考察が中心を占める

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 戦後、「暗い絵」で文壇に登場、「崩壊感覚」、「青年の
環」、さらに映画化もされた「真空地帯」で一世を風靡をま
さにめざましい活躍、の野間宏が1955年、昭和30年、いった
ん立ち止まって自らの文学的な生い立ちを振り返った本であ
る。古書でしか入手できないが、それも今は希少だ。その
内容を紹介も意味があると思う。

 著者の後書きによれば、この本は戦後から1950年頃までに
書いた文学についての理論、感想、覚え書き全てを集めたも
のだというから貴重である。著者の野間宏は戦後に新しい
文学創作の理想を掲げて登場した、いわゆるアプレ・ゲール
、戦後派の作家の一人だったが、近代都市的な猥雑さから抜
け出し、歴史的な社会問題と直結した作風に突き進み、また
詩も書いたり、小説では話題作を連打した。やはり「真空地
帯」だろう。処女作の「暗い絵」もいい。

 本書では小説論、詩論、アンドレ・ジード(ジッド)論、
外国文学展望、文学・人間、作家論、書評、時評、小さな
溶炉などの章がある。作家としての成長の跡を自ら辿り、
野間がいかにして外国の文学、特にフランスの近代文学か
らいかに吸収したか、どのようにその影響から脱却したの
か、を述べている。

 野間は「アンドレ・ジードの存在がぼくの生き方を決定し
た」と云う。当時の文学の中心的話題であったジッドにつて
考察が全編の中心をなしているだろう、

 言うまでもなくジッドは、象徴主義から出発し、人間の意識
ん問題、個人道徳の問題も掘り下げ、ある時期は共産主義に共
鳴したが、、「ソヴィエト紀行」でその幻滅を描き、ソ連当局
に嫌われ、さらにその死後にローマ法王庁から禁書指定を受け
た。

 野間はこのように変化に富んだジッドの生き方を新しい世代
の眼で批判し、同時にその功績を評価する。世界の共産党は、
ジッドの死にさいして露骨に軽蔑もしなかったが、実は無視だ
った。だがこれも正しくないという。ジッドの評価は歴史的意
義をも考え、新たな視点で見直すべきだという。野間がジッド
の共産主義からの離脱を批判しながらも、他方でその功績にも
目を向けている。

 基本的に野間は一刀両断に割り切るのではなく、首尾一貫を
求めるスタンスが顕著だ。そこから自分の独自の立場を築こう
としている。それは基本的に正しいと思エルガ理想と現実の乖
離、まして実際の政治と関わる野間とあらば困難さは拭えない。
文学的評論集、あるいは文学的半自叙伝と思えば、まとまりが
悪いのも仕方ないだろう。でも文体が野間的に硬い、「新しい
思想守るための新しい文体」というのは、それ以前だろう。つ
まり、こなれていないというのか、その傾向がこの本にもよく
現れている。

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