『電獣ヴァヴェリ』フレドリック・ブラウン、電気のない世界が人にやすらぎ与えてくれる?
かって出版されていた雑誌「S・F・マガジン」1962年
6月号掲載、星新一の訳でもモールス信号の「トン・トン・ト
ン」はおかしいぞ、「トン・ツー・トン・ツー」だろう。ま、
それはそれとして、
それが始まったのは1957年4月5日のことだった。全世界の
人々が聞いた。ラジオのCMのライター(広告文作成)で飲酒家
のジョージ・ベイリイもその一人だった。それが後になって
「ヴァヴェリ」vaveryという一種の生命体の侵略によるものだ
、と推察されるまで人々は何がどうなったのか、見当がつかな
かった。
全世界のラジオ放送にモールス信号が「トン・トン・トン、
全国民に愛されるタバコとなりました、・・・トン・トン・
トンガ趣味の紳士方、はトン・トン・トン・タバコの高雅な趣
味がお好みとなります・新鮮に保てる容器で・・・・」
というからラジオのCMは無茶苦茶でラジオ放送自体がムチャ
なものになった。ラジオだけではなく、テレビも、映像がボケ
てしまい、また映像が途切れることも。
原因の怪電波は獅子座上のあるポイントから地球に向かって
発信されている。が、それは星の運動などではなく、ある生命
体、小さな星の生命体からだと推測された。
我々が物質の振動に依存するように、波動に依存の未知の生
命体が地球をターゲットにしている、と考えられた。
4月初めで雨が多く、夕方には雷雨も降ったが、稲妻は全く見
えなくなった。
やがてラジオも聴取不能に、テレビも電話も、航空機もジュー
クボックスも、何もかも電気利用のもの全てが使えなくなった。
ネヴァダでは予定の原爆実験も湿った花火同然で不発に終わった。
地球の電波は皆、電獣ヴァヴェリに食われてしまっている、と
思われた。星占い術の本が競って読まれ初めた。
政府も直ちに対策を講じ、それは「経済再整理局」と命名され
た。第一局は「運輸局」でディーゼル機関車を引っ込め、蒸気機
関車に変更が仕事だった。同時に全国の馬が動員され、ガレージ
に配置された。馬の繁殖増産が計画された。第二の「人力再配備
局」は何百万人もの失業対策だが、実は電気がなくなったことで
人手を要する仕事が激増、一気に労働力不足が招来した、第三局
は「恒常再整理」局、電気無しで主要な電気を要しない製品を生
みだす工場への転換だった。
1961年、ベイリイは田舎に引っ込んだ。小さな地方新聞の編集
局長となった。彼は禁酒し、もっぱら釣りを楽しんだ。もはやこ
の世でイライラすることもない。世の中は静寂となった、人々
は健康となった。ただし稲妻は見られなくなった、・・・・
現在は電気、電気、電気自動車で夜も日も明けない、アジテー
ションだ、だったら自転車世界に戻れば、とは絶対に云わない、
資源浪費の極致のEVである。長続きするはずはない。
作者 Fredric William Brown 1906~1972
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