桂枝雀『枝雀のアクション英語高座』祥伝社、NONブックス、英語落語の真髄を語るが

笑福亭仁鶴さんの「家の履歴書」、何故か単行本には決して
収録されないが、仁鶴さんの自伝として最高の内容だと思う。
その最後に近い部分で、質問に応え
「要するに普通なんですわ、高座でも普通のありきたりの人
間として噺ます、常人からかけ離れた狂気な人間が高座ではね
回ったら人の心の情趣に染み入ることは出来ないでしょう、喜
びすぎず、悲しみすぎず、バランスをとらないとね」
私はこの「狂気な人間」は桂枝雀をさしている、と思えてなら
ない。枝雀さんは1939~1999,週刊文春の仁鶴さんの「家の履歴
書」は2000年6月だったはず。
確かにあまりにハイトーンで高座で跳ね回るという雰囲気の枝
雀さん、落語としては私は邪道を極めたと思うが、背後に狂気を
感じてならなかった、・・・・・だが英語で落語などまず他の誰
もやろうともしなかっただけに、その狂気のなせるパイオニアの
スピリットは評価すべきと思う。
神戸の定時制高校から神戸大の文学部に入学した前田達、まえ
だとおる、だが実質ほとんど大学に行っていない。英語は好きだ
った。高校時代、専門的な英語研究雑誌を読んでいたという証言
もある。研究社から出ていた、高校英語研究か英語青年だろうか。
英語好きは落語家になっってからも一貫し、余興ではなく、本格
的なものだった。アメリカで英語の落語をやって大受けした、と
いう実績もある。
そうなったのも、これもあるキッカケであるという。街で外人
さんに道を聞かれ、狼狽したら中学出の奥さんが的確に対応で
きた、ということで大いに面目を失い、あらためて英語に打ち込
もうと考えたとのこと、受験勉強上がりの英語では通用しない、
ということである。
かくて一大決心をした枝雀が通い始めたのが英会話教室、一回
一回、机に置いているペンを取り上げながら、口に出して「pick
up the pen」と口に出すというユニークな教室だった。それが
実はアクション英語落語の発端となったという。つまり英語を
ボディアクションで覚えようというのだ、趣旨は全く異なるが
田辺一鶴さんの講談とも相通じる。
で、枝雀はボディアクション英語を覚えていくが、落語と英語
の不思議な相性に気づく。まず第一はとにかく、繰り返し繰り返
しによる稽古、口が勝手に喋りだすまでに反復すること。第二は
「情」、である。「その気持」を込めて話す、
英語落語はまず「まんじゅうこわい」で始まる。ここではほぼ
単語の羅列でも内容は伝えられる。新作だった「ロボット・しず
かちゃん」では、外人講師を中心とした翻訳を実況中継風に面白
く見せていたが、らしい英語とはいかなるものか、と納得させら
れるのだ。「動物園」は全体にいいテキストである。
別にこの本を読んで、古書で入手可能だが、英語に突如堪能に
なれるわけでもないが、ブロークン英語の真髄を垣間見ること
は可能だろう。
この記事へのコメント