市ヶ谷乱入割腹を半年前に文学全集月報で乱入の予告と本音を告白していた三島由紀夫、稲垣足穂への異常な傾倒


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 さて、1970年11月25日、三島由紀夫こと平岡公威は自ら
創設した楯の会のメンバーらと陸自市ヶ谷総監に乱入、演説
をぶって割腹、介錯された、・・・・・。東京帝大法学部で
学籍番号が三島の一番前、隣接だった英米法の早川武夫先生
はとある雑誌、一般には広く読まれないが、あ、神戸大学法
学部教授だったが、「愚劣も極まれり、まあ、非武装中立な
どという連中には頂門の一針か」と書かれていた。でも、三
島由紀夫を過去のすさまじい偉人めいてとしか考えれないよ
うな世代の人達がネットによく書いているようだが、早川先
生は帝大文学部を出られ、その後、、法学部に学士入学され
ている。「文学のことなら私にも分かる。やれお公家様の舞
踏会とか、軍人のハラキリとか、三島の文学など石坂洋次郎、
吉屋信子レベルだ。全く文学と云える代物ではない」とはいえ
、早川先生は学籍番号が三島の一番前、隣接だから相応に観察
されているようだった。だから古書店小説とも受け取れる『永
すぎた春』にも早川先生は登場人物となっている。なお付言
すれば早川先生は「三島由紀夫とは要は世間の学習院への誤っ
た思い込みを利用した男だ」となるそれが天皇主義や軍国下
の学習院という連想からか、徴兵忌避した男だが、軍国主義
を説教するに至った、その奇妙さだ。無論、三島由紀夫は
貧農から役人として立身出世を遂げた祖父のお蔭の「庶民枠」
で学習院に入ったに過ぎない。

 「部屋にはツン読の書籍が積み上げられ・・・・・」薄毛の
妻帯者の法学部学生ということで、これが日活で映画化され、
それを見た東大法哲学の碧海純一があたふたと早川先生の住ま
いにやってきて「早川さん、随分と重要な役柄で登場してます
よ」

 さて、三島由紀夫が「愚劣も極まれり」の愚行の狼藉に及ん
だのだが、事前に多くの人にそれとなく計画をもらしていた、
という事実がある。

 その典型は中央公論社からの文学全集「日本の文学」第34巻
稲垣足穂、内田百間の巻である。三島は稲垣足穂にあきれるほ
ど傾倒していた。足穂は川端康成を徹底して、こき下ろしてた。
三島の川端への「もはや作家という資格はない」との否定は足
穂に影響された部分もあるのではないか。

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  1970年5月8日、赤坂シドにて、澁澤龍彦、三島由紀夫


    逢わずにいたい人

 三島:澁澤さんはご存知かどうか、「日本の文学」の月報の
対談は、その号に含まれている作家と編集責任者が対談するの
が、今までの例となっているんです。亡くなった作家は仕方な
いんですが、現存の作家の場合は、お目にかからなくちゃいか
ん。ところが今回は内田百閒さんと稲垣足穂さんという、難物
中の難物の両作家。僕はこの両作家には非常に傾倒していて、ど
ちらも天才だし、百閒さんの文章は昭和文学の最高の文章じゃな
いかと思うくらいです。稲垣さんの文学者として生きる生き方の
立派さ、思想的な大きさ、巨大さは、僕はこれからますます認識
されると思うんですが、そういう真面目な話は別として、僕は稲
垣さんにお目にかかりたくないんです。

 今日、その理由をあからさまに申しげると、二つ理由があるん
です。一つは僕が稲垣さんの小説を昔から愛読していること、い
まだに稲垣さんを、白い、洗濯屋から戻ってきたてのカラーをし
た、小学校の上級生と思いたいんです。どうしても、そういう少
年がどこかにいて、とんでもないものを書いているというふうに
思いたいんです。つまり美少年がとんでもない哲学経験を持って
いるという夢を持っているんです。また向こうからこっちを見て
も、こんなむさ苦しい男が出ていって、稲垣さんに対談を申し込
むというのは、はばかりがあるんです。それが第一の理由でお目
にかかりたくない。

 もう一つは、非常に個人的な理由ですが僕はこれからの人生
で何か愚行を演じるかもしれない。そして日本中の人がばかに
して、物笑いの種にするかもしれない。まったくの蓋然性だけ
の問題で、それが政治上のことか、私的なことか、そんなこと
は分からない。けれども、僕は自分の中にそういう要素がある
ると思っている。ただし、もし、そういうことをして、日本中
が笑った場合、たった一人わかってくれる人が稲垣さんだとい
という確信があるんだ。僕のうぬぼれかもしれないが、なぜか
というと稲垣さんは男性の秘密を知っている、ただ一人の作家
だと思うから。僕はこの巻の解説にも書きましたが、ついに男
というものの秘密を日本の作家は誰も知らない。日本の作家は
、男性的な作家は、主観的に男性というだけで、メタフィジカ
ルに男性の本質がなんであって、男は何のために生まれて、何
のために死ぬのか知らない。女を書くのがうまい作家は、一種
の女形作家であり、男の気持ちは全くわからない。そして僕は、
男の気持ちをメタフィジカルにわかって、男の秘密から発する
ものが天上と地獄をかけめぐる場合、どこでもちゃんと、鈎で
もって引っ掛けてくれるのが稲垣さんだという確信を持ってい
る。上の方だけで引っ掛ける人、下の方だけで引っ掛ける人、
は何人かいる。だが、天上界から地獄まで通じているのは稲垣
さん、ただひとりだ。僕はそれを思うから、稲垣さんはメタフィ
ジカルな存在、これはそーっとして会わないようにとっておき
たい。僕が稲垣さんに会わない理由はこの二つなんです。

 澁澤:三島さんの本当の愚行に到達までには小さな愚行が
 数多くある(笑)その点についてすでに稲垣さんは、辛辣な
ことを現に仰ってますが、本当の愚行がでたら評価も逆転す
るかもしれませんよ。

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 とまあ、あらかじめ、告白したい、ウズウズしているのか、
三島由紀夫だが、これと相前後の時期だった、「週刊文春」で
京都の稲垣足穂宅に野坂昭如が訪問、対談している。足穂は、
まずは川端康成の徹底否定を述べ、次に

 足穂:三島はわいに会いに来る来ると言うて全然来よらん。 
   わいに、「興行師」とよばれるんがこわいんや。

 乱入後、ある雑誌に稲垣足穂が三島乱入割腹について寄稿
していたが、それは読んではいない。まあ、この月報で三島は
本音を吐露して入るとは言えるだろう。

 私は稲垣足穂は三島由紀夫より、遥かに年長なのに三島由紀
夫が「一生、会いたくない」は奇妙な言い方であり、とんでも
ない愚行をやらかす、などという内容から「三島は何か不穏な
ことを企んでいるな」と直感したが、やっぱり。早川先生が「
愚行もきわまれり」は三島由紀夫の「事前告白」でもその通り、
であるが。川端康成の絶対否定の稲垣足穂にあれほど傾倒した
三島由紀夫、だから川端康成を自殺に追い込んだわけである。

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