フリードリヒ・デュレンマット『約束』推理小説における鎮魂歌、早川書房、レクイエム(鎮魂歌)の意味するところは
かなり読まれている推理小説だと思う。だがどうも一般向
けとはなりにくい、かなりの趣味性の深い作品ではないかと
思えないこともない。作者は戦後スイスを代表する劇作家、
フリードリヒ・デュレンマット、Friedrich Durennmatt,1921~
1990。
『約束』というタイトルに、「推理小説への鎮魂歌(レクイエ
ム)」という副題がついている。
とある村に殺人事件が起きた。少女が惨殺された。しかも暴
行されている。いたって純朴な村人たちは騒然となる。犯人は
誰だ?だが皆目見当もつかない、行商人が怪しまれた、第一発
見者なのだ。
実は行商人には少女暴行の前科があった。取り調べを受ける。
彼は必死で否定する。少女の死体を検案したらチョコレートが
出てきた。行商人もチョコレートを持っていた。厳しく追求し
たら自白した、その夜、行商人は自殺した。
この事件の取り調べに当たったマティはヨルダン政府の顧問
に採用され、赴任するはずだった。だが現場に行き、その母親
が「犯人を捕まえてください、約束して!」マティは腕利き警
部だ。
それでマティは請け負った。その「約束」Pledgeの結果か?
いや、むしろ衝動的だったかもしれない。彼はヨルダンに行く
のをやめ、警察も退職してガス・スタンドを開業、殺された
少女によく似た女の子を餌にして、再び犯人が近づくのを待つ。
なぜか、マティには行商人がどうしてもこの事件の犯人とは思
得なかったからだ。とすれば、今も犯人はどこかにいて、再犯を
狙っている。
そのうち、おとりの少女は森の中へ、・・・・・見知らぬ男に
誘われたのだ。・・・・なんだか何の変哲もない犯罪小説のよう
だ、途中までは、である。スイスの田舎の描写がいい。
結末は意外、でも何でもない、その前に書いたシナリオを結末
を変えて書き換えたという。全く凡庸であっけない幕切れだ。
名探偵が素晴らしい推理で難事件を解決、波乱万丈の起伏ある
作品、という推理小説ではないのだ。捜査のやり方も地味だ、実
に日常的だ。妙なのは殺された少女の母親の瞳に沈む光にマティ
が感動を催した、ことだろうか。なら副題の鎮魂歌、レクイエム
の意味は何か?著者は「現実の事件の結末など実は平凡であっけ
ないものだ。それが推理小説の鎮魂曲だ」、・・・・これも陳腐
だろう。結末ではない、動機なのだ、人の心こそが問題なのだろ
う、得体のしれない人間の心に光を当てる、人間という不可思議
なもの、これず鎮魂歌、鎮魂曲の対象だ。作者の意図せざる可能
性を秘めている作品だと思う。
フリードリヒ・デュレンマット Friedrich Dürrenmatt
1921~1990
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