田原総一朗、清水邦夫『愛よよみがえれ』1967,三池炭鉱の記憶喪失をテーマの田原さんの実質処女作

この9月10日、アイビースクエアのホールでの講演で田原
総一朗さんが話されていたが、東京12チャンネルのディレク
ター時代に三池炭鉱事故に取材の記憶喪失者をテーマにした
本で、清水邦夫さんとの共著である。1934年生まれの田原さ
んが30歳を過ぎた頃、気鋭のディレクター時代の本だ。
内容は、まずは三人の記憶喪失者が出る。つまりテレビド
キュメンタリーを念頭に田原さんは記憶喪失というテーマに
興味を持ち始める。そのタイミングで三池炭鉱の大規模落盤
事故ので多くの記憶喪失者が出現というニュースを手に入れ
た。
その一年前、1963年、昭和38年11月9日、この日、三池炭
鉱での大惨事の情景が、田原さんなどが集めた資料に基づい
てシナリオ風に描き出される。その中に出てくる何人かの女
性は記憶喪失となった炭鉱夫の妻である。
この事故で死者は450名に及び、その他数百名の記憶喪失者
が出た。彼らは死者のように明確に掴めない。すでに謎であ
る。だがこの不幸な犠牲者たちを二人の著者が取材するうちに
、どんどん増えていった。メンタルリハビリ、精神回復機能訓
練という、もっともらしい名称の治療とは裏腹に、それは田原
さんたちに疑念を生じさせた。実に何の効果も意味もないさそ
うな「治療」を受ける患者たちの、無表情さ。研究、治療を難
しくさせる医学者の世界、第一組合と第に組合の対立、患者へ
の会社の不可解な対応、全く治ってもないのに、治ったと決め
つけて労災の打ち切りが。
このような実際の調査から犠牲者たちの妻たちが浮かび上が
る。治っていないと分かっているのは妻たちなのだ。
その妻の一人は二人の取材に徐々に非協力となる。口を閉ざし
てしまう。精薄者のようになって性的不能、そんな夫から逃げ出
す妻たち、家出や離婚。
最後にクローズアップは看護婦として働き、組合逃走に参加し
ながら重症の夫を見守り続ける一人の女性だ。この深刻な事態を
軽妙すぎる筆致で描いた著者たちは、この健気な妻の「仮面」と
実態との乖離にぶつかる。この女性こそがドキュ面タリーの中心
となりえる魅力を持つ。
田原さんがテレビディレクター、初期の意欲的な仕事の結実で
ある。
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