遠藤周作『黒ん坊』1971,多分にシャレで書いた冗談小説だが差別用語と下品さで抹殺された?

  ダウンロード (46).jpg
 これは遠藤周作の、やや不真面目作品に近い。狐狸庵先生
作という方がいいのかどうか、だが今となれば黒人を「黒ん
防」とは差別用語、それは小川未明の「港についた黒んぼ」か
らの連想があったと思えるが1971年刊行である。その名前が
ツンパ、ちょっと不真面目ではあるが許せる不真面目と許し
にくい不真面目とがある、からすればちょっと今は抹殺される
だろう。

 いわゆるチャンバラ小説を遠藤周作が手掛けた最初の作品、
とはいうものの、内容の真摯さは不足である。ゆユーモア小
説として書いたと思うが、真の意味でチャンバラ小説ではな
い。

 この作品の冗談さは「信長生存説」で組み立てられている
ことにも見られる。

 天正八年、1580年、織田信長は本能寺で持ち前の好奇心から
南蛮寺のイタリア人神父が連れてきた黒人と会った。その名前
はツンパ、神父が奴隷商人から買い取ったものだ。なにしろ、
初めて見る黒人とあって洛中は沸き立った。言葉も通じないツ
ンパは何か芸をするように命じられ、信長の前で屁ひり踊りを
やったため、怒りを買ってあやうく斬り殺されるところを秀吉
のとりなしで、槍の名人、一柳俊之介と無理やり勝負させられ
る羽目となった。

 ツンパは投槍と跳躍力でその場を逃れ、潜伏中に人買いに
売られた姉を探しに都に来た乙吉少年と意気投合、まもなく、
この二人は松井幽閑の娘、雪に匿われる。だがそれも束の間、
幽閑は本能寺を襲撃した明智勢に討たれ、雪は逃れると途上で
、侍女や乙吉らとともに捕らえられ、はぐれたツンパは謀らず
も本能寺を逃げ出した信長と出会った。

 ツンパは負傷した信長に頼まれ、高松城を水攻めしている秀
吉のもとに連絡に走るが、途中、光秀からの密書を持って秀吉
のもとに向かう早足の忍者、燕の甚兵衛と屁ひり走法を競い、
それで勝利して一足早く、秀吉の元へ到着。しかし秀吉は秘密
を知ったツンパを殺害しようとし、ツンパは一柳俊之介に危う
いところを救われる。今度は犬男の佐助に追われる身となった。

 佐助はツンパを見失ったが、信長の生存を知って、それを秀吉
に伝えるが、かねてから信長殺害を企んでいた秀吉は信長を幽閉
し、光秀を討って天下を我が物にしようと考える。一方ツンパは
雪とともに女買いの才蔵によって見世物に出され、人気を集める
が、秀吉を見限った佐助が信長生存を家康に告げ、生き証人とし
て彼等を見世物小屋から連れ出す、・・・・

 とまあ、話はさらに続きそうだ。長編である、刊行当時は、ユー
モア小説、冗談小説の文句ない長編と評価されたが、今では、冗
談が冗談にされず、抹殺されている小説だろう。

 確かに差別用語もあって不遇な作品となったが、信長生存説と
いう構成、黒人を温厚な性格とし、容赦ない政治のマキャヴェリ
ズムを描いたもので非情さに満ちている。惜しい作と云えば、惜
しいがもう日の目は見ないだろう。

この記事へのコメント