城福勇『平賀源内』吉川弘文館・人物叢書、実際は非常に陰湿で小心な人物だった、とほぼ断定


 平賀源内は日本歴史上でも非常に人気がある人物である。
「エレキテル」くらいしか思いつかない人が多いが、同時に
最後は人を殺めて獄死、という後味の悪い死に方、でも知ら
れている。でも基本は「歴史上の人気人物」的なアプローチ
が多いのは事実、しかし吉川弘文館からのこの本はさすがで
ある。

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 普通、平賀源内の肖像をまず思い出すのだが、実は生前に
描かれたものではなく、木村黙老という人が弘化二年、1845
年に古老から聞いた情報からをもとに描いたもので、やや現
実ばなれしていると思える。煙管を手にした面長のやさ男の
斜め正面からの画像だ。著者の城福はこの肖像画自体に疑念
を抱いている。他の二種の肖像画との比較検討で、知られて
いる肖像画はやや面長過ぎ、頬骨が張っている。顎も出てい
る。鼻筋は通り、目は細長く、などの特徴は共通だという。


 さらに源内が山師、つまり鉱山師として、しょっちゅう出
入りしていたという秩父地方に伝わる源内の容貌、例えば足
袋は十文半であったということから、当時としては大男の部
類であったと、幅広く推定している。

 生まれついた容貌の記述などは伝説としては些細にしても
、城福勇さんはこのような点にも妥協しない。九州大学文学
部国文科卒、熊本師範教授から香川大教授を歴任されている。
つまり妥協なしで多くの資料、記述を元に真の姿に迫ろうと
している。興味本位な本も多い源内であるが、他方で大家の
定説的な本もある、著者はそれらに与せず、様々な資料を比
較検討している。結果、まず平賀源内の評伝としてはベスト
の本だろう。

 源内の性格については、有名な杉田玄白の「磊落不羈、
・・・・気を尚び、剛倣」とか、同郷の久保泰享の「才気
豪邁、行い頗る侠に類す」もあり、これらを見ると、豪快
は男気がある、という性格に思えるが一方で「沈黙にして
平生言語至て寡し」、「舌に引き付くような重く結滞せる
口不調法は詞」を吐くような男だった。

 作家の井上ひさしさんはこれらをもって、表と裏の源内
が登場する「表裏源内蛙合戦」書いているが、あくまで小
説であり、面白おかしく、である。城福さんは「表面は何か
豪放磊落に見えて、内心は小心者であり、陰湿な性格だっ
た」と推測している。

 確かに殺傷沙汰から獄死にいたった源内の晩年は、玄白
のコメントからは説明できない。偶然であった、とは考えにくい。

 源内の科学的業績として火浣布(石綿製の布)、寒熱昇降器、
(寒暖計)、エレキテル、本草などがあるが、これらの業績を
著者は買い被るなどせず、また科学史の見解も鵜呑みにしな
い。寒暖計などは、源内は戯れに作った、と言うが、実際は
三年近い年月をかけ、やっとの思いで作ったのではないか、
と推測する。

 吉川弘文館の本だから真面目そのもの、真剣そのもの、小
説の源内を見ると、いたって面白くはないと思えるだろう。
実際どうだったかは、しょせん完全に知るすべなどないのは
当然である。アプローチは生真面目、真剣、面白さを求める
方にはお薦めできない。

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