金子光晴『人非人伝』語りおろしシリーズ、放浪詩人の語る「実存的平等」の思想、
さて、金子光晴さん、1895~1975,でこの本の初版は大光
社という名のしれない出版社、その後、ペップ出版からだが、
でもペップ出版とは懐かしい。つまり大光社の企画で「語り
おろしシリーズ」という、話せば独特で味がありそうな人を
選んでの長々と話してもらって、それを一冊の本に仕立て上
げる、というある意味、安直な企画だが、金子光晴のような
人にはまことに似合った企画だろう。
刊行は1971年だから金子光晴さんが生涯を振り返って、と
語り尽くすという趣だ。その奔放にして流浪、放浪の人生体
験を語るのだが、テーマは「人非人」の探求だ。
金子さんの「人非人」の生き方、とは突き詰めて考えれば
、こういう文章だろうか、
「普通ならば、みな体裁よくやっていて、物事もほどほど、
そういう風に生きていく人生もあるわけなんだが、人非人の
人生はとことんまでやってね、対象が人間ならば、その人間
の臓腑までわかると、さわるなら臓腑まで触ってやると、嫌
われるなんて考えなくて、とまあ、こういう方向に行くだね
え、不浄感で人生をあきらめるんじゃなくて、不浄感で人生
を豊かにする、こういう方向です」
そこで前半は幼年期に始まり、少年期の経験からすでに、
上記のような人間観に沿っている、というべきか、さらに面
白いのは奥さんとパリに行こうとして中国や東南アジアを放
浪する体験だ。
アジアの在留日本人の間をさまよい、貧困を極める詩人の
文明感は壮大である。インド人の労働者やマレーの兵士たち
と雑魚寝のデッキ船客として航海、金子さんはその体験を
シンガポール在住の日本人に話したら、
「そいつ怒りやがった、日本人の名折れだって、何とでも
思えって思ったよ。妙に国を背負っているなんて気持ちの奴
が多くてね、まあ、三島由紀夫見てえな奴らがいっぱいいる
んだよ。うるせーな、と言いたいね」
まさしくアヴァンギャルドの詩人の名は知れわてっている
が、受けた影響という点でアメリカン・デモクラシーの詩人
たち、それを若い人にしかり受け止めてほしい、という本音
が潜んでいる気はする。
「でも、まあ、ぼくが学んだことはね、平等の思想だよ。
淫売でもアメリカ大統領でも実は全く同じ人間ってことだ。
同じだってことだよ。この平等の思想が、後にね、いろん
な道筋を建ててぼくらの国家的なものの考え、そういうも
のの基本になったんだ。同じ平等と言って左翼連中とも違
うんだ、これを誤解している人がいるね、ぼくをて抵抗詩
人なんていうのは間違いだ」
なるほど、この「平等の思想」しかも実存的、といって
いいのかどうか、実存的平等思想がこの詩人の根幹にある。
mことに「人非人思想」は容易ならざるものだと感じさせ
られる。独自な人間的なものを、荒くれ水夫に、アジアの
日人酒場の淫売、生涯ある下宿屋の娘に見出してしまうの
だ、
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