ジョゼフ・クラムゴールド『やっとミゲルの番です』And now Miguel、記録映画を物語化、アメリカ「大草原」もの

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 実在の羊飼いの少年の記録映画が出来て、その後、それを物
語化した作品である。

 ミゲル少年の家族はニューメキシコ州のプレイリー、草原
に住んで羊を飼っている。祖父と両親、叔父たち、姉と兄二
人、さらに弟、妹と大家族である。この点は「大草原の小さな
家」、「スペンサーの山」などと同じコンセプトと言える。た
だしこれは実在の記録映画に由来だから創作の「スペンサーの
山」などとは異なる。

兄弟の真ん中のミゲル、特に小さくもなく中途半端な存在であ
る。

 兄のガブリエルは8マイル離れた高等学校に通っているが、
週末には叔父や父に代わって羊小屋に行く。羊小屋は四輪馬車
の上に作られ、羊が牧草を食べきってしまうと、あたらしい牧
草地を目指して移動する。だからこの小屋に乗っていく人は羊
の世話だけではなく、狼の撃退や、パンの焼き方、魚を獲って
の料理などもマスターしておかねばならない。まして良質の牧
草がたくさんあるサンダレ・デ・クリスト山に出かけるときは
、三か月の長い滞在であるから準備が大変である。

 毎年、最後の大雪が降った後は、ミゲルは皆と山に行きたく
て「僕ももう行けます」とアピールするが、「お前はまだ無理
だ」と連れて行って貰えない。また来年まで、もしかしたら何
年も待たねばならないかもしれない。いつになったら、あの、
希望のサングレ・デ・クリストに登れるのだろうか、この山に
羊を放牧するのは許可は祖父が取得しているから、ミゲルは心で
祖父に感謝をし、自分も早く行けるように祈っている。

 春には子羊が生まれるが、その季節になると多忙を極め、食
事をする時間も、寝る時間さえない。母と子の羊が離れないよ
うに気を配る。はぐれたときは、すぐ発見でるように、親子に
黒いペンキで同じ番号をつけておく。ミゲルは番号押しの仕事
を引き受けた。

 双子の子羊が生まれ、母羊がに頭の子羊に乳をやれないよう
なときとか、子羊が二日も三日も母羊から逸れると。親なしの
子羊が出来る。子羊に死なれて悲しむ母羊がいたら、その子羊
の皮を剥ぎ、母羊に被せてその匂いで母羊を納得させる。

 雷雨で十数頭もの羊が失踪、家族が狼狽して草原を探してい
る間、ミゲルは一人で反対の丘を駆け上がり、羊たちを見つけ
る大手柄を建てた。だが学校を勝手に休んだミゲルは父親に叱
られた。「俺がほしいのは教育を受けた若者なんだ。判断の基
準を正しく持て、わかったか」

 と一日も早く、一人前の羊飼いになりたいというミゲルだが、
なかなかその希望は叶えられない。だが高校を終えた兄のガブ
リエルに徴兵局から通知が来た。これでやっと家族とともに山
に登れる、「やっとミゲルの番です」 And now Miguel という
タイトルはここから来ている。

 これは長い期間の撮影による記録映画であったが、それを
クラムゴールドが物語化したのである。アメリカの大草原に
に住む大家族モノ、これはアメリカ独自のジャンルといえる。
本作は1954年のアメリカ児童文学協会のニューベリー賞を受
賞を受賞している。

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